【RWD・ゲノムビジネス特別編】23andMe買収劇に見るリアルワールドデータ活用の課題と可能性

個人向け遺伝子検査ビジネスの先駆けであり、世界最大級のゲノム・家族情報データベースを保有していた米国の23andMeが、ついに経営破綻を迎えました。当初はRegeneronによる買収交渉が報道されていましたが、最終的に創業者であるAnne Wojcicki氏が305百万ドルで企業を買い戻す形となりました(2025年6月報道:記事リンク)。

23andMeは消費者直販型(DTC:Direct To Consumer)の遺伝子解析サービスとして、個人のDNA情報・疾病自己申告情報・家系図情報を膨大に収集してきました。これらのデータは、創薬研究やバイオ医療AIモデルの訓練データとしても期待されてきましたが、その活用にはいくつかの本質的な課題が存在しています。

目次

RWD・ゲノムビジネスの課題

  • **n数(サンプル規模)依存性**:大規模サンプルが必要だが収集維持コストが年々上昇
  • **データ品質**:患者自己申告情報に主観バイアス、記憶違い、聴取側の誘導も加わる
  • **検体条件**:血液・尿・唾液といったサンプル採取条件によるデータ誤差
  • **プライバシー・倫理課題**:個人情報の機微データを第三者が活用することの社会的懸念
  • **長期的な更新負担**:継続的に正確性と最新性を保つには技術投資が必要

それでもRWDは必要とされ続ける

こうした課題がある一方で、リアルワールドデータ(RWD)はAI創薬や治療標的探索、バイオマーカー開発などの分野で重要性を増しています。特に、ランダム化比較試験(RCT)では得られにくい希少疾患や多様な患者層の実態を捉えるにはRWDが貴重な情報源となり得ます。

今後もRWDビジネスは「課題と可能性が常に交錯する領域」として発展が続くと考えられます。

出典:Fierce MedTech (2025年6月), 記事リンク

【ひとこと】

RWDや個人ゲノムデータは規模のインパクトが魅力である一方で、その蓄積と活用には品質・倫理・長期維持コストといった重い課題が伴います。短期の期待感と現実の実務ギャップを冷静に見極めながら、慎重に活用領域を選択する姿勢が必要だと感じます。今後もこうした実務の温度感を継続して発信していきます。

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この記事を書いた人

大学院修了後、米国トップ研究病院に留学し本格的に治療法・治療薬創出に取り組み、成功体験を得る。その後複数のグローバル製薬会社に在籍し、研究・ビジネス、そしてベンチャー創出投資家を米国ボストン、シリコンバレーを中心にグローバルで活動。アカデミアにて大学院教員の役割も果たす。

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