2025年5月に公開された Nature Aging の報告によると、糖尿病治療薬として知られるGLP-1受容体作動薬(GLP-1R agonists)が、アルツハイマー病(AD)の進行を遅らせる可能性があることがマウスモデルで示されました。
研究のポイント
Zhangらによる研究では、GLP-1R作動薬が脳内のさまざまな細胞型に作用し、以下のようなメカニズムを通じてアルツハイマー病の症状を緩和すると報告されています:
- AMPKシグナル経路の活性化
- アミロイドβの代謝促進
- ミクログリアによる貪食作用の亢進
結果として、アミロイド病理の軽減および認知機能の改善が観察されました。
GLP-1受容体作動薬の再注目
GLP-1R作動薬は元々2型糖尿病や肥満治療薬として開発されましたが、近年ではその神経保護作用が注目されており、パーキンソン病・アルツハイマー病といった神経変性疾患への応用が広がりつつあります。
老化・エネルギー代謝・脳機能の接点として
加齢に伴うエネルギー代謝の変化が神経細胞の機能低下を引き起こすことが指摘されており、GLP-1経路の調整が脳内の「代謝リモデリング」を通じて若返り効果をもたらす可能性が考えられます。
今後の展望と課題
この研究はマウスモデルを対象としたものであり、ヒトへの応用にはさらなる検証が必要です。しかし、既にGLP-1作動薬が臨床使用されていることから、神経変性疾患への転用においても開発・承認までのハードルは比較的低く、注目が高まっています。
出典: Na D, Schneeberger Pané M. GLP-1R agonists protect against Alzheimer’s disease by rewiring energy regulation. Nature Aging. 2025 May 20. 記事リンク
関連報道: AMPK活性化によるGLP-1Rの効果を示した別論文(Nature Aging 同日公開)
【ひとこと】
GLP-1受容体作動薬は、血糖値や食欲を調整するホルモンとしてだけでなく、老化に関連する代謝変化を制御し、脳機能にも作用する可能性を秘めています。治療薬としての再発見は、老化制御という観点からも非常に興味深い展開です。
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