News Watch: in vivo CAR-T RACE(2025年最新動向・総まとめ)

最終更新:2025-09-01 JST

リード:ex vivo(体外製造)から in vivo(体内でCAR化)へ――細胞治療の重心が移りつつあります。直近では大型買収の連発、初回投与(first-patient-dosed)、フェーズ1進捗が相次ぎ、ウイルスベクター系(Umoja/Interius/Kelonia)とtLNP/mRNA系(Capstanほか)の二極構造でレースが加速。臨床実装の鍵は「前処置(リンパ球除去)の回避」「再投与の柔軟性」「標的の拡張性」「医療現場の運用容易性」にあります。

目次

3行まとめ

  • 資本の収斂:Kite(Gilead)のInterius買収、AbbVieのCapstan買収完了で、in vivo基盤が大手の規制・製造・商業機能と結合。
  • 臨床の前進:Keloniaが多発性骨髄腫で初回投与。InteriusとUmojaは血液がん領域でフェーズ1を加速中。
  • 技術の二極:レンチ様ベクター群 vs tLNP/mRNA群。勝敗の分水嶺は「前処置回避×再投与性×院内実装性」。

背景:なぜ in vivo

従来のCAR-Tは採血→遺伝子導入→培養→輸送→投与という多段工程がコスト・時間・地理的制約を生み、適応対象でも治療に到達できない患者が存在しました。in vivoは「患者体内をCAR-T工場にする」アプローチで、製造と物流のボトルネックを迂回し、アクセス性・スケール・費用対効果の改善を狙います。さらに、投与をシンプルにできれば、外来ベースの運用(在院日数の短縮)や地域分散型提供モデルの成立可能性も高まります。

企業別ハイライト(2025年Q3時点)

Kite(Gilead)× Interius:3.5億ドル買収でin vivo基盤を内製化

2025年8月21日、KiteがInteriusの買収を発表。Interiusのin vivoプラットフォーム(CD20標的のINT2104を先行)を取り込み、血液がんフランチャイズにおける製造簡素化とスケールを強化します。INT2104のフェーズ1(INVISE)は豪州で開始し、2025年には欧州拡張の規制承認も取得。2024年には初回投与を公表済みで、初期データの提示が見込まれています。

AbbVie × Capstan:tLNP/mRNAで自己免疫先行、がん領域へ波及

2025年6月の買収発表に続き、8月19日に買収完了。リード資産CPTX2309はCD19標的のtLNP+mRNAにより、体内でT細胞を一過性にCAR化する設計。再投与の柔軟性前処置の簡素化が理論的優位性で、まずはB細胞性自己免疫で概念実証を進め、のちに腫瘍領域へ展開する戦略です。

Kelonia Therapeutics:BCMA(KLN-1010)が豪州で初回投与

2025年8月19日、inMMyCARフェーズ1で初回投与を達成。単回投与・前処置不要という運用仮説を掲げ、骨髄腫の患者アクセス改善を目指します。臨床運用(外来可否、発熱・CRSなどの安全性、デリバリーの安定性)が近々の検証ポイントです。

Umoja Biopharma(+AbbVieオプション):RACR×VivoVecで選択的増殖

UB-VV111(CD19、米国)は2024年にINDクリアしフェーズ1(INVICTA-1)へ。UB-VV400(CD22、中国IIT)も始動。RACR(rapamycin-activated cytokine receptor)により、ラパマイシン投与でCAR修飾細胞だけを選択的に増やす機構を組み込み、非CAR細胞は抑制するコンセプトです。前処置回避と用量制御の両立が注目点。

アプローチ比較:二つの潮流

① レンチ様ベクター群(Umoja/Interius/Kelonia)

レンチウイルス由来の粒子を最適化し、T細胞へ遺伝子を組み込むことで体内でCAR-Tを生成します。UmojaはVivoVecにより、活性化・共刺激・遺伝子導入を多ドメインで統合。InteriusはCD20で既存CD19治療後のリラプス群を狙い、KeloniaはBCMAで前処置不要な運用モデルの確立を目指しています。

② tLNP/mRNA群(Capstan/AbbVieほか)

標的化LNPでCAR mRNAをT細胞へ送達し、一過性にCARを発現させます。再投与が容易製造リードタイムが短い外来運用と親和といった性質から、まずは自己免疫で実証→腫瘍へ横展開というロードマップが有力です。

臨床評価で注視すべきKPI

  • 安全性:発熱・CRS、挿入変異リスク、オフターゲット、過度の免疫抑制。初期コホートの「無風」維持が最大の価値ドライバー。
  • 前処置回避の実証:RACR×ラパマイシン等で、非CAR細胞を抑えつつCAR細胞のみを増殖させられるか。
  • 運用容易性:単回投与・外来対応・在院日数・トータルコスト(薬剤+前処置+ケア)—病院経営の実数値での優位性。
  • 標的戦略:CD19/20/22/BCMAのポートフォリオで再発後集団をどう拾うか。二重標的化の設計も要注目。

競争地図(2025年Q3)

  • Interius(Kite/Gilead):INT2104(CD20)—豪州F/I/H→欧州拡張、2024年に初回投与。買収により開発~商業の背水が厚化。
  • Umoja(AbbVieオプション):UB-VV111(CD19/米)、UB-VV400(CD22/中)。RACR×VivoVecで前処置簡素化と選択的増殖を狙う。
  • Kelonia:KLN-1010(BCMA/豪)。単回投与・前処置不要コンセプトで外来適合性を検証。
  • Capstan(AbbVie):CPTX2309(CD19/tLNP/mRNA/自己免疫)。買収完了で規制・製造・商業の統合度が向上。

よくある誤解と現実

  • 「in vivoがすぐex vivoを置換」は短期的には非現実的。適応・毒性プロファイル・医療提供体制の違いから当面は併存が濃厚。
  • 「固形がんに一気に波及」はハードル高。抗原多様性、免疫抑制的TME、局所送達の課題を多重標的×TME改変×局所投与でブレークスルーする必要。

私の見方:今後の展望(投資・事業・臨床)

  • 短期(〜12か月):初期安全性の「無風」維持が評価を牽引。Keloniaの外来運用データ、UmojaのRACR挙動(投与量と増殖の制御性)が重要イベント。
  • 中期(1–3年):自己免疫で「深いB細胞枯渇×再投与柔軟性」を示せば、tLNP陣営ががんへ橋渡し。血液がんではCD22/BCMAや二重標的化でリラプス群に差別化余地。
  • 長期(3–5年):固形がん参入は多重標的ロジック回路+TME改変+局所送達の三点セットが条件。勝者は技術連携(ウイルスベクター×合成生物×デリバリー)と院内実装モデル(Day-hospital化、地域分散治療)を同時に作れる陣営。

参考情報(一次情報・レビュー)

  • Kite(Gilead)によるInterius買収(2025/08/21、公式PR等)
  • AbbVieのCapstan買収完了(2025/08/19、公式PR等)
  • Kelonia:KLN-1010 初回投与(2025/08/19)
  • Umoja:UB-VV111 INDクリア(2024/07/31)、JPM2025資料
  • Interius:INT2104 初回投与(2024/10/23)、欧州拡張(2025/01/07)

この記事はMorningglorysciencesチームによって編集されました。

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この記事を書いた人

大学院修了後、米国トップ研究病院に留学し本格的に治療法・治療薬創出に取り組み、成功体験を得る。その後複数のグローバル製薬会社に在籍し、研究・ビジネス、そしてベンチャー創出投資家を米国ボストン、シリコンバレーを中心にグローバルで活動。アカデミアにて大学院教員の役割も果たす。

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