本コラムBでは、本シリーズ全体で整理してきた内容を踏まえて、
「明日からの実務でADCをどう扱うか」という観点から、チェックリスト形式で問いをまとめます。
・製薬企業の経営層・R&D・BD / ライセンシング担当者
・ADCを開発するバイオテックやスタートアップ
・ヘルスケア投資家・CVC・事業会社投資部門
・戦略コンサルタント・エクイティアナリスト・業界アナリスト
こうしたプレイヤーが、それぞれの立場から「自分たちはADCとどう付き合うのか」を整理するための「10の質問」を提示します。
日本発プレイヤーや、日本市場に関わるグローバルプレイヤーを特に意識しつつ、グローバルに通用する問いになるよう構成しています。
1. 製薬企業向け:ADCポートフォリオを見直す5つの質問
Q1:自社のADCは「なぜ」やるのか?
「他社もやっているから」「注目されているから」という理由だけでADCに参入していないか、改めて問い直すことが出発点になります。
- 自社のコア疾患領域において、ADCが他モダリティでは取り切れない価値を生むのはどこか。
- その価値は、エビデンス・バイオロジー・市場・医療経済の観点から説明できるか。
ここが曖昧なままADCにリソースを投下すると、「パテントクリフの穴埋めプロジェクト」に終わりやすくなります。
Q2:疾患×標的×モダリティのマップは描けているか?
自社の重点領域で、疾患×標的×モダリティのマトリクスを整理できているかが重要です。
- ADCを第1選択とする標的・疾患はどこか。
- 二重特異抗体薬・細胞治療・放射性医薬品・低分子とどのように住み分けるか。
- 「とりあえずADC」ではなく、モダリティを比較した結果としてADCを選べているか。
Q3:ADC比率は「高すぎない」か?
パイプライン全体に占めるADCの比率(プロジェクト数・予算・人的リソース)を定量的に把握し、
- 中長期的に見てリスク集中になっていないか。
- 2030年代のADCパテントクリフを織り込んだ設計になっているか。
をチェックする必要があります。ADC偏重が、将来の柔軟性を削っていないかどうかを確認する問いです。
Q4:バイオマーカーと診断体制まで含めたプランになっているか?
ADCは、標的発現やバイオマーカー診断と切り離せません。
- 「HER2低発現」のような概念も含め、自社ADCの対象患者定義は明確か。
- 地域ごと(日本・米国・欧州・中国など)の診断体制・保険償還を考慮しているか。
「理論上の対象患者数」だけで計画していないかをチェックすることがポイントです。
Q5:社内にADCをリードできる「横断チーム」はあるか?
ADCは、バイオロジー・化学・CMC・安全性・規制・商業などが交差するモダリティです。
- 縦割りを超えてADCを推進できるクロスファンクショナルなリーダー/チームがいるか。
- 外部パートナー(CDMO・バイオテック・アカデミア)との連携を設計できるか。
この問いに対する答えは、ADCプロジェクトのスピードと質を左右します。
2. バイオテック/スタートアップ向け:ポジショニングの3つの問い
Q6:自分たちは「どこで勝つADCバイオ」なのか?
ADCバイオテックは、自社の勝ち筋を1つか2つに絞り込む必要があります。
- 新規標的・新規ペイロード・新規リンカー・新規コンジュゲーションなど、どこにユニークさがあるか。
- 「エンハーツのフォローオン」ではなく、どの点で差別化されたコンセプトなのか。
投資家やパートナーに対して、「他のADCバイオと何が違うのか」が一言で説明できるかどうかが重要です。
Q7:どこまで自社で持ち、どこからパートナーに託すのか?
出口戦略の観点から、
- 前臨床まで/フェーズ1まで/フェーズ2まで、どの段階を自社の標準ゴールとするか。
- 地域ごとにどのようなパートナー像(グローバル・リージョナル・中国企業など)を想定するか。
- 自社に残すべきプラットフォーム権利と、オープンにすべき部分の線引きはどこか。
を早い段階から言語化しておくことが求められます。
Q8:中国・アジアADCとの「競合か協業か」は決まっているか?
ADC領域では、中国・アジアのプレイヤーとの距離感が重要なテーマになります。
- 自社は競合として戦うのか、パートナーとして組むのか。
- 技術移転・データ共有・共同開発に伴う地政学リスクをどう評価するか。
「なんとなく距離を取る」「とりあえず全部オープン」という中間状態は、後から問題化しやすい領域です。
3. 投資家向け:ADCエクスポージャーを管理する2つの問い
Q9:自分のポートフォリオは、ADCにどれだけ・どの形で賭けているか?
ヘルスケア投資家にとって、まず必要なのは現状の見える化です。
- 上場株+未上場株+ファンドLP出資を含めたADC関連エクスポージャーの全体像は把握できているか。
- そのうち、プラットフォーム型と単一品目型の比率はどうなっているか。
- 中国・アジアADCへの間接的なエクスポージャーも含めて可視化できているか。
「ADCに賭ける/賭けない」の議論の前に、「どれだけ賭けているのか」を明確にする問いです。
Q10:シナリオ別の「勝ち筋」と「痛み」は定義できているか?
本シリーズ第7回で示したような、2030年代の複数シナリオ(基幹モダリティ化、ニッチ化、第二波など)を想定したとき、
- 各シナリオでポートフォリオがどう評価されるかをイメージできているか。
- どのシナリオでも致命傷を負わないためのヘッジやオプションはあるか。
を整理しておくことが重要です。「ADCが大成功したとき」と「期待を下回ったとき」の両方で、具体的に何が起こるかを描いておくと、日々の判断もブレにくくなります。
4. コンサルタント・アナリスト向け:伝え方に関する補助線
コンサルタントやアナリストは、クライアントや投資家に対して、「ADCをどう語るか」も重要な仕事になります。例えば次のような点がチェックポイントになります。
- 短期のニュースフローと中長期の構造変化を、意識的に分けて説明しているか。
- 特定企業のADC戦略を評価するときに、モダリティミックス全体という視点を入れているか。
- ディール条件やバリュエーションを議論するときに、「エンハーツ的成功」の影響をどこまで織り込むかを明示しているか。
「ADCは熱い領域です」で終わらせず、どの前提に立って何を評価しているのかを可視化することが、差別化されたインサイトにつながります。
私の考察
ADCは、技術トレンドとしてもディールトピックとしても非常に魅力的なテーマですが、個々のプレイヤーにとって重要なのは「他社がどうしているか」ではなく「自分たちはなぜ・どこまでADCに踏み込むのか」を言語化することだと感じています。本コラムで挙げた10の問いは、そのためのチェックリストの一例にすぎませんが、少なくともこの程度のレベルで自社・自分の立場を説明できるかどうかが、ADC時代の意思決定の質を左右していくはずです。
また、これらの問いに対する「正解」は一つではありません。むしろ、企業規模、重点領域、既存ポートフォリオ、地理的な立ち位置などによって最適解は大きく変わります。その意味で、ADCをめぐる議論は、単なるモダリティ選択ではなく、各プレイヤーの戦略と自画像を映し出す問いでもあります。ADC争奪戦の熱気に流されすぎず、自分たちなりのスタンスを持つことが、長期的な価値創造につながると考えています。
本記事は、Morningglorysciencesチームによって編集されています。
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