シリーズ:女性ホルモンとライフコースで読む「女性のがんリスク」:思春期から閉経後まで(第5回)

第5回|更年期と更年期障害:がんリスクと“生活の質”をどう両立させるか——HRTの考え方と非ホルモン選択肢

更年期は、多くの女性にとって「いつの間にか体が変わっていた」と感じやすい時期です。ホットフラッシュ、睡眠障害、気分の揺れ、関節痛、疲労感——症状は多彩で、しかも個人差が大きい。だからこそ、情報が断片化しやすく、「HRTは危ないの?」「がんリスクは?」という不安が、症状そのものをさらに重くすることがあります。

この回の目的は、更年期の症状を“地図上に並べ直す”ことと、がんリスク(特に乳がん)を含むトレードオフを、相対ではなく“意思決定の道具”として扱える状態にすることです。

本記事は一般向けの情報整理を目的とし、個別の治療を勧奨するものではありません。症状がつらい場合や既往歴がある場合は医療機関でご相談ください。


目次

この記事でわかること

  • 更年期とは何か(“揺らぎ”の正体)と、症状が広がる理由
  • ホットフラッシュ/睡眠障害/気分変調/関節痛などの全体像
  • ホルモン補充療法(HRT)が「何に効くのか」と「何が論点なのか」
  • 乳がんリスクは“相対”ではなく“絶対”で捉える考え方
  • 骨・心血管など「がん以外のリスク」とのバランス設計
  • 非ホルモン療法(薬・行動・生活)の現実的な選択肢

更年期とは何か:ホルモンが“下がる”だけでなく“揺れる”

更年期(特に閉経前後の移行期)は、エストロゲンが単調に低下するだけでなく、日・週・月単位で振れ幅が大きくなることがしばしばあります。結果として、体温調節、睡眠、気分、痛みの感受性など、多系統に影響が出やすくなります。

この時期の症状を理解するコツは、「一つの病気」ではなく、ホルモンリズムの再編に伴う“症状クラスター(まとまり)”として捉えることです。


更年期症状の全体像:よくある“4つのまとまり”

1)血管運動神経症状(VMS):ホットフラッシュ/寝汗

体温調節が不安定になり、突然のほてり・発汗・動悸のような感覚が出ることがあります。夜間は寝汗として現れ、睡眠の質を下げ、翌日の気分・集中力にも波及します。

2)睡眠障害:入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒

ホットフラッシュに伴う覚醒だけでなく、ストレス反応や生活リズムの乱れが重なり、慢性化しやすい領域です。睡眠の乱れは、気分変調や体重増加にも連鎖します。

3)気分・認知:イライラ、不安、気分の落ち込み、集中しづらさ

「性格の問題」にされがちですが、睡眠・ストレス・ホルモン揺らぎが絡む“身体側の要因”として整理する方が、対策につながります。

4)痛み・身体感覚:関節痛、こわばり、疲労感

更年期では関節痛や全身の違和感が前面に出る人もいます。ここも単独ではなく、睡眠や活動量の低下とセットで悪循環になりやすいポイントです。


HRT(ホルモン補充療法)の位置づけ:「何に効くか」を先に押さえる

ホルモン療法は、主要学会の声明でも、更年期の血管運動神経症状(ホットフラッシュ等)に最も有効であり、また泌尿生殖器症候群(GSM)などにも有効で、骨量低下・骨折予防にも寄与し得る、と整理されています。

一方で、リスクは「HRTか否か」ではなく、種類(エストロゲン単独か、黄体ホルモン併用か)/用量/期間/経路/開始時期/個人のリスク背景で変わる、というのが大枠です。


乳がんリスク:相対リスクではなく“絶対リスク”で読む

WHIの「絶対リスク」の提示は、意思決定の道具になる

HRTの乳がんリスクは、特に「エストロゲン+プロゲスチン(併用)」で増加が示されたことで有名です。WHI(Women’s Health Initiative)の報告では、併用療法で浸潤性乳がんが年あたり“1万人に8人”増えるという形で、絶対リスクが示されています。

ここで重要なのは、「増える=即NG」ではなく、症状の重さ、生活の質(QOL)、骨折リスク、心血管リスク、既往歴などを含めて、本人が納得できる“バランス点”を探すことです。数字は恐怖の材料ではなく、比較の材料です。

短期使用・個別化という考え方

NAMSのポジションステートメントでは、乳がんリスクはレジメンや期間で異なり、短期の使用では「大きく増えない」可能性や、エストロゲン単独では異なるパターンが示唆される点などが整理されています。

つまり、HRTの議論は「善悪」ではなく、設計(何をどの形で、どのくらい、誰に)の問題として捉えるのが現実的です。


がん以外のリスク:骨と心血管を“同じ天秤”に載せる

骨:更年期早期の骨量低下に対する防御

ACOGは、全身性エストロゲンが閉経早期の骨量低下を抑え、骨粗鬆症予防に役立つ点を説明しています。

心血管:開始時期や背景でリスクの見え方が変わる

WHIの再評価やレビューでは、年齢や閉経からの期間で結果の解釈が変わり得ること(いわゆるタイミング仮説の議論)が整理されています。ただし、ここは「万人に有益」と単純化せず、個別のリスク(喫煙、高血圧、血栓リスク等)を前提に医療者と設計する領域です。


非ホルモン療法:現実的に“効くもの”を並べる

ホットフラッシュ等の血管運動神経症状に対して、ホルモン以外の選択肢も拡充しています。代表例のひとつが、NK3受容体拮抗薬のfezolinetantで、FDAが中等度〜重度のホットフラッシュ治療薬として承認しています。

加えて、一般に非ホルモン選択肢としては、抗うつ薬系(SSRI/SNRI)、ガバペンチン等が議論されることがあります(適応・副作用・併用禁忌など個別性が大きいので、結論は医療者と相談が前提です)。

生活・行動面:完璧より「悪循環を断つ」

  • 睡眠:まずは入眠前ルーティンの固定、光(朝の太陽)と運動で体内時計を整える
  • 体温調節:寝具・室温の調整、トリガー(飲酒・辛味・過度な室温)把握
  • 運動:強度より継続。歩行+軽い筋トレは睡眠と気分に波及しやすい
  • アルコール:VMSと睡眠を悪化させ得るため、量と頻度を“現実的に”下げる

受診・相談の実務:「何を持って行くか」で答えの質が変わる

  • 症状の種類(ホットフラッシュ、睡眠、気分、痛み)と強さ
  • 頻度(週に何回、夜間に何回)
  • いつから/悪化しているか(時間軸)
  • 既往歴(血栓、脳卒中、乳がん、肝疾患など)と家族歴
  • 生活への影響(仕事、家事、対人関係)

これだけで、HRTを含む治療選択が「怖い/怖くない」から、「何を優先する設計にするか」へ移ります。


まとめ

  • 更年期は「低下」だけでなく「揺らぎ」の時期で、症状はクラスターで出やすい
  • HRTはVMSに最も有効で、GSMや骨にも利益があり得る
  • リスクは一律ではなく、種類・期間・経路・開始時期・個人背景で変わる
  • 乳がんリスクは絶対リスクで把握すると意思決定に使える(WHI:1万人年あたり8人増)
  • 非ホルモン治療(例:fezolinetant)も選択肢が増えている

私の考察

更年期の議論で最も損をするのは、「症状がつらいのに我慢し続ける」か、「怖い情報に引っ張られてゼロか百で判断してしまう」か、どちらかだと思います。HRTは確かにトレードオフがありますが、WHIのように絶対リスクで見ると、議論は一気に現実的になります。重要なのは、乳がんリスク“だけ”を最大化して恐れるのではなく、睡眠障害や気分変調による生活機能低下、骨折リスク、心血管リスクなどを同じ天秤に載せて、自分にとっての最適点を設計することです。更年期は、体が壊れていく時期ではなく、体のルールが変わる時期です。ルールが変わるなら、対策も変えていい。私はそう整理しています。

Morningglorysciences 編集部より:本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療判断は医療機関でご相談ください。

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この記事を書いた人

大学院修了後、米国トップ研究病院に留学し本格的に治療法・治療薬創出に取り組み、成功体験を得る。その後複数のグローバル製薬会社に在籍し、研究・ビジネス、そしてベンチャー創出投資家を米国ボストン、シリコンバレーを中心にグローバルで活動。アカデミアにて大学院教員の役割も果たす。

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