目次
はじめに
2025年8月現在、肥満治療薬の開発・販売競争は、Eli LillyとNovo Nordiskの二強時代が続く一方で、業績変動や新規参入バイオベンチャー、大手製薬の本格参入によって勢力図が大きく変わりつつあります。本記事では、最新ニュース、株価動向、主要バイオテックや大手製薬の開発戦略、そして中外製薬(Chugai)の動きまでを網羅的に解説します。
Lilly(イーライリリー)の現状と株価動向
- Orforglipron(経口GLP-1薬)の第III相での体重減少は平均11~12.4%と、注射薬(Zepbound:21%、Wegovy:15%)には及ばず、市場は失望感からLilly株は約14%下落。FDAへの提出は2025年末までに予定され、上市は2026年頃が見込まれています。
- それでもQ2業績は堅調で、ZepboundとMounjaroの好調な売れ行きにより、2025年通期収益見通しを引き上げ。
- 肥満治療薬市場の業界全体では、今後10年で約1,500億ドル規模になるとの見通しもあり。
大手製薬の参入状況
- Amgen:週1回皮下注のGLP-1/GIP二重作用薬「MariTide」開発中。
- Roche:Carmot Therapeutics買収で、経口GLP-1候補やトリプルアゴニストをパイプラインに追加。
- Pfizer:経口GLP-1開発を一旦撤退するも、新機軸での再参戦を模索。
- AstraZeneca:Eccogeneとの提携により経口GLP-1薬「ECC5004」開発中。
- Sanofi:GLP-1経口薬やアミリン類似薬を前臨床〜初期段階で複数進行中。
台頭する新規バイオテック企業
- Metsera:MET-097i(超長時間作用型GLP-1注射薬)がPhase IIaで12週で11.3%体重減、最大20%。Phase IIIへ向けIPOで約2.75億ドル調達。
- Zealand Pharma:GLP-1+GLP-2二重作用薬「Dapiglutide」をPhase Ibへ進行中。
- Structure Therapeutics:経口GLP-1作動薬「Aleniglipron(GSBR-1290)」で有望な第II相結果。
- Altimmune:GLP-1+グルカゴン二重作用薬「Pemvidutide(Phase II)」に注目。
- Viking Therapeutics:GLP-1+GIP二重作用薬「VK2735」を注射・経口型で開発。
- Fractyl Health:遺伝子治療「Rejuva」やデバイス「Revita」でGLP-1後の維持療法に注力。
- EktaH:脂肪味受容体を刺激する新機構の経口/スプレー型アプローチ。
中外製薬(Chugai)の戦略
- LillyへのOrforglipron導出元として注目。
- 筋肉減少防止薬「GYM329」との併用による新たな肥満治療スタンダード確立を狙う。
主要プレイヤーとパイプライン一覧(上市予定年・推定市場規模付き)
企業 | 主要候補薬 | 作用機序 | 開発段階 | 上市予定年 | 市場規模見通し |
---|---|---|---|---|---|
Eli Lilly | Orforglipron / Zepbound / Mounjaro | 経口GLP-1 / GLP-1+GIP二重作用 | Orforglipron:P3 / 他:上市済 | 2026年頃 | 肥満薬市場 約1,500億ドル(今後10年) |
Novo Nordisk | Wegovy / Amycretin / Cagrisema | GLP-1注射 / GLP-1+アミリン / GLP-1+GIP | 上市済 / P2〜P3 | ― | 同上 |
Amgen | MariTide | GLP-1+GIP二重作用 | P2 | 2027~2028年頃 | GLP-1市場 約630億ドル(2032年) |
Roche | Carmot由来候補 | GLP-1 / トリプルアゴニスト | P1〜P2 | 2028年以降 | 同上 |
Pfizer | 非公開候補 | 非ペプチドGLP-1 | 前臨床 | 2030年前後 | ― |
AstraZeneca | ECC5004 | 経口GLP-1 | P2 | 2028年前後 | ― |
Sanofi | 未公開候補 | GLP-1 / アミリン類似薬 | 前臨床〜P1 | 2030前後 | ― |
Metsera | MET-097i | GLP-1超長時間作用 | P2→P3 | 2027~2028年 | 肥満薬市場 約150億ドル(2030〜31年) |
Zealand Pharma | Dapiglutide | GLP-1+GLP-2 | P1b | 2029年頃 | ― |
Structure Therapeutics | Aleniglipron | 経口GLP-1 | P2 | 2028年頃 | ― |
Altimmune | Pemvidutide | GLP-1+グルカゴン | P2 | 2028~2029年 | ― |
Viking Therapeutics | VK2735 | GLP-1+GIP | P2 | 2028~2029年 | ― |
Fractyl Health | Rejuva / Revita | 遺伝子治療 / デバイス | P1 / 市販 | P1:2030年頃 | ― |
Chugai | Orforglipron / GYM329 | 経口GLP-1 / 筋肉維持抗体 | P3 / P1 | 2026年 / 2030年以降 | 同上 |
市場環境と競合状況
- 2024年には抗肥満薬市場が初めて300億ドルを突破。2030〜2035年にかけて1,000〜1,500億ドル規模に成長予測。
- GLP-1市場は2025年280億ドルから2032年に635億ドルへ拡大予測(年平均成長率12.3%)。
- 2029年までに16種類の新薬が登場し、2031年には肥満薬市場が2,000億ドル規模に達する可能性も。
今後の注目ポイント
- 口服GLP-1薬の商業化競争:Orforglipron(2026年予想)、Aleniglipron、Structureなど。
- 多機能薬の登場:Amycretin、Pemvidutide、Dapiglutide、MariTide。
- 市場アクセスと価格戦略:保険適用や価格設定が競争の鍵に。
- 新規技術:Fractylの遺伝子治療、Chugaiの筋肉維持治療。
まとめ
肥満治療薬市場は、二強時代を軸にしながらも、大手製薬の参入と新興企業の多様なアプローチによって競争が激化しています。Orforglipronの上市や、Chugaiの革新的戦略は市場に大きな影響を与える可能性があります。今後は「口服薬」「多重作用薬」「価格・アクセス」「技術差別化」がキーワードになるでしょう。
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この記事はMorningglorysciencesチームによって編集されました。
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