初心者向け|二重特異抗体薬 第4回モダリティの違いによる薬理特性の違い

同じ「二重特異抗体薬」であっても、その構造様式(モダリティ)により、体内での安定性や分布、作用の仕方が大きく異なります。本記事では、IgG型・非IgG型・融合タンパク質型などのモダリティの違いによって生じる薬理特性の違いを、初心者にもわかりやすく解説します。

目次

1. モダリティとは何か?

「モダリティ」とは、抗体医薬の構造的な形式を指す用語であり、抗体そのものの形状や結合部位の設計、さらには補助タンパク質の有無などを含みます。二重特異抗体では、ターゲット結合部位を2種類持つだけでなく、その配置や構造形式がさまざまな薬理特性に影響を与えます。

2. IgG型モダリティの薬理特性

  • 安定性: Fc領域を持つことで体内半減期が長くなる
  • 分布: 血中滞留性が高く、組織への浸透は比較的遅い
  • 機能: ADCCやCDCなど免疫エフェクター機能を保持可能

代表例:GenentechのGlofitamab、RocheのFaricimab など

3. 非IgG型(二量体、断片型など)の薬理特性

  • 安定性: 小型構造ゆえに分解・排泄が早く半減期が短い
  • 分布: 組織への浸透性が高く、固形がんなどで有利
  • 機能: Fc領域がないため免疫活性化機能は基本的に無し

代表例:AmgenのBlinatumomab(BiTE技術)など

4. 融合タンパク質型(IgGベース+他構造融合)

  • 安定性: 構造が大きくなるため安定性にバラツキが出やすい
  • 分布: 特定部位への指向性を強化する設計が可能
  • 機能: Fcを利用した標準的な活性+融合タンパクの機能追加

代表例:JanssenのTeclistamab、ZymeworksのZW49など

5. 各モダリティにおける薬理特性比較まとめ

モダリティ安定性分布性免疫活性代表例
IgG型ありGlofitamab, Faricimab
非IgG型なしBlinatumomab
融合タンパク型○〜◎あり(+α)Teclistamab, ZW49

6. モダリティ選択が与える開発戦略への影響

ターゲットとする疾患(血液がん・固形がん)、投与ルート(静脈内、皮下など)、治療環境(外来/入院)によって、適切なモダリティは異なります。たとえば、短時間作用を狙うBiTEは一部で持続注入が必要となり、製剤開発に工夫が求められます。

7. 今後注目される新規モダリティとその応用

近年では、Tri-specificやTandem構造など、さらに進化した構造設計が登場しています。また、抗体以外のモダリティ(例:抗体-ペプチド融合体や抗体-RNA複合体など)も登場しており、モダリティの選択は創薬戦略の重要な鍵となりつつあります。

まとめ

二重特異抗体薬において、モダリティの違いは薬理特性だけでなく、投与方法、製剤設計、開発コストにも影響を及ぼします。今後の開発では、疾患に応じた最適なモダリティの選択が成功の鍵となるでしょう。

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この記事はMorningglorysciences編集部によって制作されました。

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この記事を書いた人

大学院修了後、米国トップ研究病院に留学し本格的に治療法・治療薬創出に取り組み、成功体験を得る。その後複数のグローバル製薬会社に在籍し、研究・ビジネス、そしてベンチャー創出投資家を米国ボストン、シリコンバレーを中心にグローバルで活動。アカデミアにて大学院教員の役割も果たす。

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