in vivo CAR-Tの未来を担うキーパーソンたち
本シリーズでは、最先端のin vivo型CAR-T療法について、初心者にもわかりやすく全体像を解説しています。第7回となる今回は、この分野を牽引する世界の研究者やスタートアップ創業者たちに焦点を当て、彼らの業績や思想、取り組みの方向性から「未来」を読み解きます。技術だけでは語れない“人”の力に注目しながら、これからのin vivo CAR-T開発の可能性を探っていきます。
はじめに:なぜ「人」がin vivo CAR-Tの未来を形作るのか
in vivo型CAR-T細胞療法は、近年ますます注目を集める革新的がん治療法です。この分野は、単なる技術革新だけでなく、それを推進する研究者・起業家・臨床医たちのビジョンと挑戦によって大きく発展しています。本記事では、in vivo CAR-Tの未来を形作る世界のキーパーソンたちに焦点を当て、その業績や思想を深掘りしていきます。
1. カリフォルニア発:Umoja BiopharmaとMichael Jensen博士
Umoja Biopharmaは、in vivo CAR-T療法の第一線を走るスタートアップの一つであり、設立者の一人であるMichael Jensen博士は、小児がんにおける免疫療法のパイオニアです。彼はSeattle Children’s Research Instituteでの長年の研究を通じて、自己増殖型CAR-T細胞のコンセプトや腫瘍局所での免疫活性化に関する新しい戦略を提唱しました。
Umojaは、ウイルスを使わない方法で体内にCAR遺伝子を導入する非ウイルスベクター(例えばSleeping Beautyトランスポゾン)や、腫瘍部位に局所的に発現する因子(Tumor Microenvironment Conditioning)によって、がん細胞に特異的に活性化されるCAR-Tの開発を進めています。
2. 国際的視点:フランスCellectis社とAndré Choulika博士
CRISPRよりも先行してゲノム編集技術を応用してきたCellectis社は、アロジェニック(他家由来)CAR-Tに注力してきましたが、最近ではin vivo型アプローチにも注目しています。その背景には、CEOであるAndré Choulika博士の「医薬品は個別化から、汎用的なin vivoベースに進化すべきだ」という構想があります。
Cellectisは、LNP(脂質ナノ粒子)によるmRNA導入により、in vivoで遺伝子編集を行い、特定の細胞にだけ効果を発揮する安全性の高いCAR-T療法を模索しています。
3. Academicから産業界へ:Stanford大学のCrystal Mackall博士
小児がん領域におけるCAR-T療法の第一人者として知られるCrystal Mackall博士は、Stanford大学にて基礎から臨床へのトランスレーショナル研究を率いています。彼女のチームは、免疫チェックポイント阻害の応用、CAR設計の最適化、制御性スイッチの開発など、多面的にin vivo CAR-Tの基盤技術を発展させています。
彼女はまた、起業家としても行動しており、Stanford発のスタートアップ「Lyell Immunopharma」の共同設立者でもあります。LyellはエピジェネティクスやT細胞の疲弊制御に注目しており、今後in vivoアプローチへの展開が期待されています。
4. スピンアウトの動き:HarvardとAffini-T社のアライアンス
Harvard系の研究者たちを中心に設立されたAffini-T社は、腫瘍特異的TCR(T細胞受容体)を基盤としたin vivo遺伝子導入技術の応用に取り組んでいます。in vivo型のCARやTCR-T技術は、非侵襲的かつ自己免疫疾患や固形がんへの応用が期待されています。
Affini-Tは、免疫抑制環境下でも効果を発揮するようにT細胞の代謝やエフェクター機能を制御する設計を導入し、in vivoプラットフォームへの応用可能性を探っています。
5. その他注目すべきプレイヤー
- Capstan Therapeutics:脂質ナノ粒子とmRNAの組み合わせによるCAR-T誘導技術で先行。
- Vector BioPharma:アデノウイルスベースでの体内遺伝子導入に焦点。
- Orna Therapeutics:円形RNA(oRNA)技術により、安定的かつ高効率なin vivo発現を目指す。
まとめ:キーパーソンの動向が未来の指針になる
in vivo CAR-T療法は、基礎研究、製薬企業、ベンチャーの融合領域であり、そこに関わる人材の情熱や専門性が技術進化の加速装置となっています。本記事で紹介したキーパーソンたちは、まさにin vivo CAR-Tの現在と未来を形作る存在です。
次回は、これらの企業や研究機関が今後どのような提携や展開を進めていくのか、グローバル戦略の視点から考察していきます。
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この記事はMorningglorysciences編集部によって制作されました。
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