放射線治療の基本:しくみ・種類・役割をやさしく解説
第1回では、がん治療全体の地図と「治りやすさ/治りにくさ」を眺め、第2回では、手術・薬物療法・免疫療法の役割と再発の理由を整理しました。
第3回となる今回は、もう一つの大きな柱である放射線治療に焦点を当てます。
放射線治療と聞くと、
- 「手術と何が違うの?」
- 「からだにどれくらいダメージがあるの?」
- 「一度当てたら、もうその場所には使えないの?」
といった疑問が浮かぶ方も多いと思います。
この記事では、放射線治療のしくみ・種類・当て方・副作用を、専門用語をできるだけかみくだいて解説し、「どんな場面で放射線が選ばれるのか」が見えるようにしていきます。
この記事でわかること
- 放射線治療ががん細胞をどう傷つけるのかという基本原理
- 外照射と小線源治療(組織内照射)の違い
- 線量、分割照射、計画照射(プランニング)の考え方
- 根治目的・補助的役割・緩和ケアとしての放射線
- 3D-CRT、IMRT、SBRT、IGRTといった高精度放射線治療のイメージ
- 放射線の主な副作用と、そのコントロールの考え方
- 手術の「代わり」として、または手術と組み合わせて使われる典型的なケース
第1章 放射線治療とは何か:見えない「ビーム」でDNAを壊す
放射線治療の基本原理
放射線治療は、X線や電子線などの高エネルギーの光・粒子を体の外から(あるいは内側から)当てて、がん細胞のDNAを傷つける治療です。
放射線が細胞に当たると、
- DNAに直接傷が入る
- 水分子などを介して活性酸素が発生し、間接的にDNAが傷つく
といった現象が起こります。DNAが十分に傷つくと、細胞はもう正常に分裂できず、時間をかけて死んでいきます。
がん細胞は、
- もともとDNA修復能力が弱く
- 正常細胞よりも分裂が活発
であることが多いため、同じ線量を当ててもがん細胞の方がダメージに弱いという特徴があります。これを利用して、がん細胞により強くダメージを与えつつ、周囲の正常組織の傷をできるだけ抑えるのが放射線治療です。
「体全体」ではなく「狙った範囲」に当てる
薬物療法(抗がん剤)は、血液を通じて全身に広がりますが、放射線治療は基本的に照射野(しょうしゃや)と呼ばれる狙った範囲にエネルギーを集中させます。
このため、
- 特定の部位に限局したがんを局所的に攻める治療
- 痛みや出血など、特定部位の症状を抑えるピンポイントの緩和治療
として非常に有効です。
第2章 外照射と小線源治療:放射線の当て方の違い
外照射(エックス線などを体の外から当てる)
最も一般的なのが、外照射(external beam radiotherapy)です。
- リニアック(直線加速器)と呼ばれる装置を使い
- 体の外からX線や電子線を照射し
- さまざまな角度からビームを組み合わせて、がんのある領域に線量を集中させる
という方法です。
1回あたりの照射時間は数分程度で、
- 平日は毎日(週5回)
- 数週間〜数十回に分けて
通院しながら受けるのが標準的なスタイルです。
小線源治療(組織内照射・密封小線源)
もう一つの方法が、小線源治療(ブラキセラピー)です。こちらは、
- 放射性物質(線源)を体の中に一時的または恒久的に入れ
- がんのごく近くから照射する
というスタイルです。
代表的な例としては、
- 前立腺がんに対する密封小線源治療
- 子宮頸がんに対する腔内照射
などがあります。がんのごく近くに線源があるため、急激に線量が落ちて周囲の正常組織を比較的温存しやすいというメリットがあります。
第3章 線量と分割照射:一度に全部ではなく「少しずつ」当てる理由
グレイ(Gy)という単位
放射線治療で用いる線量は、通常グレイ(Gy)という単位で表します。
- 「何Gyを、何回に分けて当てるか」
- 「1回あたり何Gyか」
が治療計画の重要な要素になります。
なぜ一度にまとめて当てないのか:分割照射の考え方
多くのがんに対する放射線治療では、1回で大線量を当てるのではなく、
- 1回あたり 1.8〜2Gy 程度
- 平日毎日、数週間〜
というように、少しずつ分けて当てる(分割照射)のが基本です。
これは、
- がん細胞はDNA修復が下手で、ダメージから立ち直りにくい
- 正常細胞は修復能力ががん細胞より高く、休み時間を与えれば回復しやすい
という性質の差を利用するためです。
分割することで、
- がん細胞には累積して決定的なダメージを与えつつ
- 正常組織の回復に時間を与え、副作用を減らす
ことが期待できます。
少数回・大線量照射(SBRTなど)という考え方もある
一方で、近年はステレオタクティック放射線治療(SBRT)のように、
- 1回あたりの線量を高め
- 全体の回数を少なくする(例:3〜5回など)
という方式も広がっています。
これは、
- 腫瘍が小さく、はっきり限局している
- 重要臓器との距離や位置関係が許せる
といった条件を満たす場合に用いられ、体への負担を抑えながら「強く・短期間に」治療する選択肢になります。
第4章 放射線治療の役割:根治・補助・緩和の3つの顔
1. 根治(治癒)を目指す放射線治療
放射線治療は、がんの種類とステージによっては手術に匹敵する根治の選択肢になることもあります。
- 前立腺がん:手術と同等の根治率が期待できるケースも多く、患者さんの希望や年齢、合併症に応じて選択されます。
- 喉頭がん(声帯):早期の喉頭がんでは、放射線で声を温存しながら治癒を目指す治療がよく行われます。
- 早期の肺がん:手術が難しい高齢者や合併症のある患者さんでは、SBRTによる根治照射が選ばれることがあります。
2. 手術や薬物療法を支える「補助的」な役割
放射線治療は、手術や薬物療法と組み合わせて、
- 局所再発のリスクを下げる
- 腫瘍を前もって小さくして手術をしやすくする
といった役割を担うことも多くあります。
- 乳がん:乳房温存手術後に放射線を当てることで、残った乳房内での再発リスクを大きく下げることができます。
- 直腸がん:手術前の放射線(+抗がん剤)で腫瘍を縮小させ、肛門を温存できる可能性を高める戦略が取られます。
- 頭頸部がん:手術後の放射線によって局所再発のリスクを抑えることがあります。
3. 症状を和らげる緩和的放射線治療
がんが進行し、治癒が難しい段階でも、放射線は生活の質を保つための大きな味方になります。
- 骨転移による痛みの軽減
- 脳転移による頭痛や麻痺の軽減
- がんからの出血や狭窄(食物が通りにくい)の改善
など、症状に合わせて必要な部位にピンポイントで照射することで、「できるだけ痛みなく過ごす」ことを支える重要な治療です。
第5章 高精度放射線治療:3D-CRT、IMRT、SBRT、IGRTとは
3次元原体照射(3D-CRT)
3D-CRT(3次元原体照射)は、CT画像などから腫瘍の立体的な形を再構成し、その形に合わせてビームの方向と形を調整する方法です。
- 従来の「前と後ろから単純に当てる」照射よりも
- 腫瘍に線量を集中させ、周囲の正常組織を避けやすくなります
強度変調放射線治療(IMRT)
IMRT(強度変調放射線治療)は、ビームの形だけでなく強さも細かく変えながら照射する技術です。
- 複雑な形の腫瘍や
- 大切な臓器が近くにあるケース
でとくに威力を発揮し、
- 腫瘍には十分な線量を届けつつ
- 正常臓器の被ばくを極力減らす
ことが可能になります。頭頸部がんや前立腺がんなどで広く用いられています。
定位放射線治療(SBRT・SRS)
SBRT(体幹部定位放射線治療)やSRS(定位放射線手術)は、
- 数ミリ〜数ミリ単位の精度で腫瘍を狙い
- 少数回・大線量で照射する
高精度治療です。
- 小さな肺がん
- ごく一部の転移(オリゴメタ)
- 脳転移
などに対して用いられ、「メスを使わない外科手術」のようなイメージで説明されることもあります。
画像誘導放射線治療(IGRT)
IGRT(画像誘導放射線治療)は、照射のたびにCTやX線で位置を確認し、
- 腫瘍や臓器の位置ズレを補正してから照射する
技術です。
呼吸や体の動きによるズレを最小限に抑えられるため、
- 必要以上に広い範囲を「安全マージン」として含めなくてよくなり
- より正確に線量を集中できる
というメリットがあります。
第6章 放射線治療と手術・薬物療法の組み合わせ
手術の「代わり」として放射線を選ぶケース
次のような状況では、手術の代わりに放射線治療が選ばれることがあります。
- 年齢や合併症のために全身麻酔のリスクが高い
- 臓器を温存したい(喉頭の声、肛門機能など)
- 腫瘍が小さく、放射線で十分な根治線量を届けられる
早期の喉頭がん・前立腺がん・一部の肺がんなどでは、患者さんの価値観や生活背景も踏まえたうえで、「手術か放射線か」を選択する場面がよくあります。
手術・薬物療法との併用で相乗効果を狙う
放射線治療は、
- 手術前に腫瘍を小さくする(ネオアジュバント)
- 手術後の局所再発リスクを下げる(アジュバント)
- 抗がん剤と同時に使って効果を高める(化学放射線療法)
といった形で、他の治療と組み合わされます。
たとえば、
- 食道がん:手術前に化学放射線療法を行い、腫瘍を小さくしてから切除する。
- 子宮頸がん:放射線と抗がん剤を同時に用いることで、局所制御率を高める。
など、がん種ごとに最適な組み合わせが研究されています。
第7章 放射線の副作用:急性期と晩期の違い
急性期副作用:治療中から数週間に出る反応
放射線治療中〜治療後しばらくの間に出やすい副作用を急性期副作用と呼びます。
- 皮膚の赤み・ヒリヒリ感(軽い日焼けのような状態)
- 照射部位の痛み・むくみ
- 口やのどへの照射での口内炎・飲み込みにくさ
- お腹への照射での下痢や軽い腹痛
- 全身的なだるさ
多くは治療が終わって数週間〜数ヶ月で改善していきますが、ケアが必要な場合もあります。
晩期副作用:時間がたってから現れる影響
放射線を当てた部位の組織は、長い時間をかけて変化していくことがあります。これを晩期副作用と呼びます。
- 皮膚や皮下組織の硬さ・しこり
- 血管や神経の慢性的なダメージ
- 肺や心臓などへの影響(部位による)
- まれに、照射部位に新たながん(二次がん)が生じるリスク
現代の放射線治療は、高精度化と線量制限の工夫により、これらのリスクをできる限り減らす方向に進化していますが、完全にゼロにはできないのが現実です。
「怖がりすぎず、軽視もしない」バランス感覚
放射線の副作用というと不安が先に立ちますが、重要なのは、
- その治療によって得られるベネフィット(効果)
- 予測されるリスクや負担
を冷静に天秤にかけることです。
たとえば、
- 根治の可能性がぐっと高まるのであれば、一定の晩期リスクを許容する価値がある
- 一方で、根治が難しい状況では、強い副作用よりも症状緩和と生活の質を優先する
といった選択が考えられます。ここでも、患者さんと医療者の対話が非常に重要になります。
第8章 放射線治療が選ばれやすい代表的ながんと、その理由
前立腺がん・喉頭がん・一部の肺がん
これらのがんでは、
- 手術と放射線で同程度の根治率が期待できるケースが多く
- 臓器の機能温存や合併症のリスクが選択のポイント
になります。
- 前立腺がん:排尿機能や性機能への影響などを考慮し、手術か放射線かを選ぶ。
- 喉頭がん:声を残すことを重視し、早期がんでは放射線単独で治癒を目指すことが多い。
- 早期肺がん:手術が難しい場合、SBRTで根治を目指す選択肢がある。
頭頸部がん・直腸がんなどでの臓器温存戦略
頭頸部がんや直腸がんでは、「治るかどうか」に加えて、
- 食べる・話す・排泄する
といった生活の質に直結する機能をいかに残すかが大きなテーマになります。
放射線治療は、
- 腫瘍を縮小させて手術の範囲を減らす
- 場合によっては手術を行わず、臓器機能を温存した治療を目指す
といった戦略の中で重要な役割を担います。
第9章 今回のまとめと、次回以降の予告
第3回では、放射線治療の基本について、
- 放射線ががん細胞を傷つける原理
- 外照射と小線源治療の違い
- 線量と分割照射の考え方
- 根治・補助・緩和という3つの役割
- 3D-CRT、IMRT、SBRT、IGRTといった高精度放射線治療のイメージ
- 急性期・晩期の副作用と、そのバランスの取り方
- 放射線を積極的に選ぶ代表的ながん種と理由
を整理しました。
メッセージを一言でまとめると、
放射線治療は、「切るか、飲むか」の二者択一ではなく、その中間を埋める第三の柱として、がん治療の可能性を広げている
と言えるかもしれません。
次回・第4回では、
- 陽子線治療と重粒子線治療の基礎
- X線との物理的な違い(ブラッグピークなど)
- どのようながんで、どの国・施設で使われているか(概要レベルで)
といったテーマを取り上げ、「粒子線治療とは何か」を入門的に解説していきます。
この記事は Morningglorysciences チームによって編集されました。
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、具体的な診断・治療方針については必ず主治医とご相談ください。
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