がん治療の理解入門から基礎シリーズ 第5回

目次

がん種別にみる「治りやすさ/治りにくさ」:代表的ながんの特徴


これまでの回では、がん治療全体の考え方や、手術・薬物療法・放射線治療・粒子線治療といった「治療の道具」について整理してきました。

第5回となる今回は、多くの方が一番気にされるテーマ、すなわち「どのがんが治りやすく、どのがんが治りにくいのか」という疑問に向き合っていきます。

インターネットや本には、

  • 「このがんは予後がいい」
  • 「このがんは5年生存率が低い」

といった情報がたくさんありますが、数字だけを見ると不安ばかりが大きくなることもあります。

この記事では、あえて細かい統計値ではなく、

  • なぜ治りやすい・治りにくいとされるのか
  • その背景にどんな理由や特徴があるのか

を、代表的ながん種ごとにやさしく整理していきます。

同時に、「治りにくい」と言われるがんについても、治療が無意味ということでは決してない、という視点を大切にしていきます。


この記事でわかること

  • 「治りやすさ/治りにくさ」が何を意味しているのか
  • ステージ(進行度)と早期発見が、生存率を大きく左右する理由
  • 比較的「治りやすい」とされるがんの代表例と、その背景
  • 「治りにくい」とされるがんの代表例と、その難しさの原因
  • 同じがん種でも、人によって見通しが変わる要因
  • 再発・転移という言葉の意味と、向き合い方のヒント
  • 「治りにくいがん」と診断されたときに、何を大切にしていくかという視点

第1章 「治りやすい」「治りにくい」とは何を指すのか

生存率・再発率・生活の質という3つの軸

一般に「治りやすいがん」と言うとき、多くの場合は

  • 一定の期間(5年・10年など)生存している人が多い
  • 再発率が比較的低い

という意味で使われています。

一方で、

  • たとえ生存期間が長くても、重い後遺症や強い副作用で生活の質が大きく損なわれることもある
  • 反対に、完治は難しくても、治療を続けることで「慢性疾患のように付き合っていける」場合もある

など、「治りやすさ/治りにくさ」は単純な一つの数字で言い表せるものではありません。

個人の予後と「統計」の違い

統計としての「生存率」や「再発率」は、

  • 多くの患者さんのデータをまとめて平均した姿

です。一方で、目の前の一人ひとりの患者さんは、

  • がんの広がり方
  • 遺伝子・分子レベルの特徴
  • 年齢・合併症・体力

といった条件が全く違います。

ですから、統計的に「治りにくいがん」とされていても、個々のケースでは

  • 手術がうまくいき、長期に安定している
  • 新しい薬が効き、予想よりずっと長く元気に過ごせている

といったことも実際に起こります。

この記事では、あくまで「傾向としてそう言われている」というレベルで話を進めていきます。


第2章 ステージと早期発見が左右するもの

ステージとは「どこまで広がっているか」の指標

がんの「ステージ(病期)」は、

  • がんがどのくらい大きいか(T)
  • リンパ節に転移しているか(N)
  • 遠くの臓器に転移しているか(M)

といった要素にもとづいて決められます。ざっくり言えば、

  • ステージI・II:比較的早期
  • ステージIII:局所的には進行しているが、遠隔転移はない
  • ステージIV:遠隔転移がある

というイメージです。

早期発見できるがんは「治りやすくなりやすい」

多くのがんで共通しているのは、

  • 早く見つかるほど、治せる可能性が高くなる

という事実です。

  • 腫瘍が小さいうちに切除できる
  • まだ遠隔転移していない段階で放射線や薬物療法を組み合わせられる

など、使える治療の選択肢が増え、十分な「攻め」の治療ができる可能性が高まります。

逆に、

  • 症状が出にくい場所にできるがん
  • 進行するまで気づきにくいがん

は、どうしても発見が遅れやすく、「治りにくいがん」として名前が挙がりやすくなります。


第3章 比較的「治りやすい」とされるがんの代表例

甲状腺がんの一部・精巣腫瘍など

統計的にみて、比較的「治りやすい」とされるがんとして、しばしば挙げられるものに、

  • 分化型甲状腺がん(乳頭がん・濾胞がんなど)の一部
  • 精巣腫瘍(精巣がん)
  • ホジキンリンパ腫
  • 一部の小児白血病

などがあります(病型やステージによって大きく異なります)。

理由としては、

  • 早期に見つかりやすい
  • 有効な治療法(手術・薬物療法)が確立している
  • 治療に対する反応性が高い

といった点が挙げられます。

早期乳がん・早期大腸がんなど

さらに、

  • 早期の乳がん
  • 早期の大腸がん・直腸がん

も、適切な治療を受けることで長期生存が期待できる例が多いがんとして知られています。

これらのがんでは、

  • 検診や内視鏡で比較的早い段階で見つかりやすい
  • 手術や放射線、薬物療法などの「標準治療」が整っている

といった点が「治りやすさ」に貢献しています。


第4章 「治りにくい」とされるがんの代表例と、その難しさ

膵がん・胆道がんなど:気づきにくさと広がりやすさ

膵がん胆道がん(胆管がん・胆のうがんなど)は、

  • おなかの奥深くにあり
  • 初期症状がはっきりせず

進行するまで気づかれにくいことが多いがんです。

その結果、

  • 見つかったときにはすでに周囲の大血管や臓器に広がっている
  • 手術で完全に取り切ることが難しい
  • 再発しやすい

といった状況になりやすく、「治りにくいがん」として語られることが多くなります。

進行肺がん・卵巣がんなど:診断時には広がっていることも

肺がん卵巣がんも、症状が出にくかったり、他の病気と紛らわしい症状だったりして、

  • 診断時にすでに進行している
  • 胸膜や腹膜に広がっている

ことが珍しくありません。

特に卵巣がんでは、

  • お腹の中に広く散らばるように広がるタイプ
  • 薬が効いて縮小しても、時間が経つと再び増えてくるタイプ

などがあり、長い時間をかけて「付き合っていく治療」になることもよくあります。

脳腫瘍・肝細胞がんなど:場所や背景疾患の難しさ

脳腫瘍(特に一部の悪性脳腫瘍)肝細胞がんでは、

  • 重要な臓器の中に腫瘍があるため、十分に切除したり強い放射線を当てたりしにくい
  • 背景に肝硬変などの慢性疾患がある場合、強い治療に耐えられないことがある

といった制約も加わり、「治療の余地はありつつも、根治は難しい」という状況が生じます。


第5章 同じがん種でも「人によって違う」要因

分子サブタイプと治療反応性

近年のがん医療では、同じ「○○がん」という名前でも、

  • 遺伝子異常のパターン
  • タンパク質の発現

などによって細かく分類(サブタイプ分け)されることが増えています。

たとえば、

  • 乳がんのサブタイプごとに治療法と予後が違う
  • 肺がんで特定の遺伝子変異があると、標的薬がよく効くことがある

といったことが知られています。

このため、統計としては同じがん種でも、

  • その人のがんの「性格」によって、見通しが大きく変わる

という時代になってきています。

年齢・体力・併存症

また、治療の強さや選択肢は、

  • 年齢
  • 心臓・腎臓など他の臓器の機能
  • 持病(糖尿病、心疾患など)の有無

といった「からだの全体状態」によっても変わります。

同じステージ・同じがん種でも、

  • 強い治療を最後までやりきれる人
  • 副作用や合併症のリスクが高く、治療を途中で調整する人

では、結果として見通しが違ってくることがあります。


第6章 再発と転移:がんが「戻ってくる」とはどういうことか

局所再発と遠隔転移

一度治療が終わったあとにがんが「戻ってきた」と言うとき、医学的には、

  • 局所再発:元の場所やその近くに再びがんが現れる
  • 遠隔転移:血液やリンパ液を通じて、離れた臓器に新たながんができる

といったパターンがあります。

再発の場所や広がり方によって、

  • 再手術や再照射が可能な場合
  • 薬物療法で全身をコントロールする必要がある場合

など、取れる戦略が変わってきます。

早い再発・遅い再発で意味合いが違うことも

治療後、比較的早い時期(1〜2年以内など)に再発する場合と、数年〜十数年たってから再発する場合では、

  • がんの「性格」
  • 治療への反応性

が異なることもあります。

早い再発は、

  • もともと生物学的に攻撃的ながんだった

可能性があり、治療方針を見直す必要があります。一方、長い時間を経ての再発では、

  • 「第二の新しいがん」のような性質を持つ場合もある

など、捉え方が変わることもあります。


第7章 「治りにくいがん」と向き合うための視点

「治らない=何もできない」ではない

統計として「治りにくい」とされるがんでも、

  • 症状を和らげる
  • 進行を遅らせる
  • 生活の質を保ちながら時間を稼ぐ

といった意味で、できることは数多くあります。

特に、

  • 放射線治療による痛みや出血のコントロール
  • 薬物療法による腫瘍縮小・進行抑制
  • 支持療法(痛み止め・栄養管理・心理的サポートなど)

は、たとえ根治が難しい状況でも、その人の人生の質を大きく支える役割を果たします。

「何を大事にしたいか」を医療者と共有する

治りにくいがんと診断されたときこそ、

  • どこまで治療の「強さ」を求めるか
  • どんな生活を維持したいか
  • 何をしている時間を大事にしたいか

といった、個人の価値観がとても重要になります。

これらを主治医や医療チームと率直に共有することで、

  • 「可能な限り治療を続ける」選択も
  • 「症状コントロールと生活の質を優先する」選択も

その人にとって納得感のある形で組み立てやすくなります。


第8章 今回のまとめと、次回への予告

第5回では、がん種別の「治りやすさ/治りにくさ」について、

  • ステージと早期発見が大きく影響すること
  • 統計として「治りやすい」とされるがんの代表例と、その背景
  • 「治りにくい」とされるがんの代表例と、その難しさの理由
  • 同じがん種でも、分子サブタイプや体全体の状態で見通しが変わること
  • 再発・転移の基本的なイメージ
  • 「治りにくいがん」と診断されたときに大切になる視点

を整理しました。

ごく短くまとめると、

「治りやすい/治りにくい」という言葉は、がんの種類だけでなく、見つかったタイミング・その人のからだの状態・がんの性格・使える治療選択肢など、さまざまな要因が重なった結果をざっくり表現したもの

と言えます。

次回以降は、

  • 再発・転移と向き合うためのより具体的な考え方
  • 「がんとともに生きる」期間をどう支えるか
  • 標準治療と臨床試験・セカンドオピニオンなどの活用

といったテーマに、少しずつ踏み込んでいきます。


この記事は Morningglorysciences チームによって編集されました。
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、具体的な診断・治療方針については必ず主治医とご相談ください。

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この記事を書いた人

大学院修了後、米国トップ研究病院に留学し本格的に治療法・治療薬創出に取り組み、成功体験を得る。その後複数のグローバル製薬会社に在籍し、研究・ビジネス、そしてベンチャー創出投資家を米国ボストン、シリコンバレーを中心にグローバルで活動。アカデミアにて大学院教員の役割も果たす。

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