がん治療の理解入門から基礎シリーズ 第6回

目次

再発・転移とどう向き合うか:長期戦としてのがん治療


第5回では、「治りやすい/治りにくい」とされるがんを代表例ごとに見ながら、ステージや分子サブタイプ、からだ全体の状態が予後を大きく左右することを整理しました。

第6回となる今回は、多くの方が直面しうるテーマ、すなわち「再発・転移」について、少し丁寧に向き合っていきます。

一度治療が終わったあとに、検査や症状をきっかけに「がんが戻ってきた」「別の場所に広がっていた」と告げられることがあります。その瞬間、

  • 「もう終わりなのではないか」
  • 「頑張って治療した意味がなかったのでは」

と感じてしまう方も少なくありません。

しかし医学的には、「再発・転移=何もできない」という意味では決してありません。治療の目的やゴールを整理し直しながら、長期戦としてがんと向き合っていくステージと捉えることができます。

この記事では、再発・転移の考え方と、治療・生活・心の持ち方について、一般の方向けに基礎から解説します。


この記事でわかること

  • 再発・転移とは何か、どのようなパターンがあるのか
  • 治療後のフォローアップ検査で何を見ているのか
  • 再発・転移が見つかったときに、医療チームが整理する「治療の目的」
  • 局所再発に対する治療の考え方の例
  • 遠隔転移がある場合の治療選択肢のイメージ
  • 「がんと長く付き合う」という視点と、生活・心の支え方

第1章 再発・転移を理解するための基本

再発と転移の違い

一度治療が終わったあと、がんが再び見つかる現象は、医学的には大きく分けて次のように整理されます。

  • 局所再発:元のがんがあった場所、またはその近くに再びがんが現れること
  • 領域再発:元のがんの「勢力圏」にあるリンパ節などに再び現れること
  • 遠隔転移:血液やリンパの流れに乗って、肺・肝臓・骨・脳など離れた臓器に新たながんが現れること

これらはすべて「がんの細胞レベルでは完全に消しきれていなかった」ことを意味しますが、

  • どこに出てきたか
  • どのくらいの広がりか

によって、取れる戦略や、期待できる治療効果が変わってきます。

「新しいがん」との区別がつきにくい場合もある

また、まれにですが、

  • 以前のがんとは別に、新たな場所で新しいがん(第二の原発がん)が発生する

こともあります。画像や組織検査、遺伝子解析などで、

  • 以前のがんの「分身」なのか
  • 全く新しいがんなのか

を見極めようとしますが、完全に区別がつかないケースもあります。

患者さん側から見ると、どちらであってもショックであることに変わりはありませんが、医学的には治療戦略の立て方に影響することがあります。


第2章 治療後フォローアップで「何を見ているのか」

画像検査・血液検査・症状のトライアングル

治療が終わったあと、定期的なフォローアップ(経過観察)が行われます。ここで医療チームが見ているのは大きく、

  • 画像検査:CT、MRI、超音波、PETなど
  • 血液検査:腫瘍マーカー、肝機能・腎機能、血球数など
  • 症状や体調の変化:痛み・息切れ・体重減少・しこりなど

の3つです。

腫瘍マーカーは便利な指標になることもありますが、

  • 「上がったから必ず再発」
  • 「正常だから絶対安心」

という性質のものではありません。あくまで総合的な判断材料の一つとして扱われます。

「見つけるべきタイミング」を探るフォローアップ

フォローアップの目的は、

  • 再発や新しいがんを「まったく症状が出る前から見つける」ことではなく
  • 「治療方針を立て直すうえで、意味のあるタイミングで見つける」こと

にあります。

たとえば、あまりにも小さい影を無理に追いかけても、

  • 治療が不要な良性変化だった
  • 治療することでかえって負担が大きくなった

ということも起こりえます。

そのため、ガイドライン等では、がん種・ステージごとに「どのくらいの間隔で、どの検査を行うか」がある程度決められています。


第3章 再発・転移が判明したときに整理される「治療の目的」

3つの軸で考え直す

再発や転移が見つかったとき、医療チームは改めて、

  • 1) 根治を目指せる可能性があるか
  • 2) 長期コントロールを目指す段階か
  • 3) 症状緩和・生活の質の維持を中心とする段階か

という3つの軸を整理します。

これは、

  • 再発の場所と広がり
  • がんの性格(増殖スピード、分子サブタイプなど)
  • 本人の体力や臓器機能
  • 今までに受けた治療と、その蓄積

を総合して判断されます。

「今の段階で何を目標とするか」を共有する

患者さんやご家族にとって重要なのは、

  • 「今、この段階で何を目標に治療するのか」

を、主治医とできるだけ言葉にして共有することです。

  • 根治の可能性がまだあるなら、少し強めの治療に挑戦するのか
  • 根治は難しくても、数年単位のコントロールを目指して治療を続けるのか
  • 治療の負担を減らしながら、痛みや症状を抑えることを中心にするのか

といったゴールの違いによって、選ばれる治療の「強さ」や種類は変わってきます。


第4章 局所再発に対する治療の考え方

再手術・再照射が選択肢になることも

局所再発の場合、条件が整えば、

  • 再手術(局所切除、再切除など)
  • 再照射・別の角度からの放射線治療
  • 外科治療+放射線の組み合わせ

が選択肢になることもあります。

ただし、

  • 前回の手術や放射線で、すでに周囲の組織にダメージがある
  • 重要な臓器が近くにあり、安全に追加治療できる余地が限られている

といった理由から、「再度の根治的治療」が難しい場合も少なくありません。

局所コントロールが重要な意味をもつケース

それでも、

  • 痛みや出血などの症状が局所から出ている場合
  • 局所での腫瘍増大が、臓器の機能を妨げるおそれがある場合

には、根治を目指すかどうかにかかわらず、

  • 局所を小さく抑え込むこと

自体が重要な意味を持ちます。

たとえば、

  • 骨への照射で痛みを軽くする
  • 気道を圧迫している腫瘍を小さくして息苦しさを改善する

といった治療は、たとえ「完治」とは言えなくても、生活の質を大きく変えることがあります。


第5章 遠隔転移がある場合の治療選択肢のイメージ

全身治療が中心になることが多い

遠隔転移がある場合、基本的には、

  • 薬物療法(抗がん剤・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬など)

による全身治療が中心になります。

全身治療の目的は、

  • 腫瘍を小さくする(縮小)
  • 増殖のスピードを落とす
  • 症状を和らげる

ことで、結果として「時間を稼ぐ」ことと「生活の質を保つこと」の両方を目指します。

「一部だけを狙う」局所治療が加わることも

最近では、遠隔転移があっても、

  • 転移の数が少ない(オリゴメタスタシスと呼ばれる状態)
  • 特定の臓器だけに限局している

といった場合に、

  • 転移巣の切除手術
  • 高精度放射線(ピンポイント照射など)

を併用することで、長期生存が期待できるケースも報告されています。

すべてのがん種・すべての患者さんに当てはまるわけではありませんが、「遠隔転移=全身治療だけ」とは限らない時代になりつつあります。


第6章 がんを「長く付き合う病気」として捉える視点

治療のゴールが「マラソン型」に変わることも

再発・転移がある状況では、治療のゴールが、

  • 短期決戦で敵を一気に倒す「スプリント型」

から、

  • ペース配分を考えながら長く走る「マラソン型」

へと変わることがあります。

その場合、

  • 最初から全力の強い治療を続けるよりも
  • 副作用や生活への影響を見ながら、治療の強さを調整していく

というスタイルが重要になります。

「治療」と「休む期間」のバランス

薬物療法の中には、

  • 一定期間しっかり治療した後、いったん休薬する
  • 効果が続いているうちは、維持療法に切り替える

といった形が取られるものもあります。

このように、

  • 治療強度の波を作りながら、全体として長くコントロールする

という考え方は、「がんと共に生きる」期間が長くなっている現代のがん医療を象徴しています。


第7章 心と生活の支え方:情報との距離感も含めて

情報の海に溺れないために

再発・転移がわかったとき、多くの人がインターネットや本で必死に情報を集めます。それ自体は自然なことですが、

  • 古い情報や、前提条件の違うデータ
  • 個別の成功体験だけを強調した体験談

などに触れて、かえって不安や混乱が増してしまうこともあります。

おすすめしたいのは、

  • 主治医に「自分のケースに近い情報源やキーワード」を教えてもらう
  • 信頼できる公的機関・学会・医療機関が発信している資料を軸にする

というスタンスです。

家族・仕事・日常生活との折り合い

再発・転移との付き合いは、「治療」と同じくらい、

  • 家族との役割分担
  • 仕事をどう続けるか・休むか
  • 趣味や楽しみの時間をどう確保するか

といった日常生活の設計が重要になります。

必要に応じて、

  • がん相談支援センター
  • 医療ソーシャルワーカー
  • 心理士や緩和ケアチーム

など、医療機関内外の資源を積極的に活用してよい場面も多くあります。


第8章 今回のまとめと、次回への予告

第6回では、再発・転移について、

  • 局所再発・遠隔転移といった基本的なパターン
  • 治療後フォローアップで何を見ているのか
  • 再発・転移がわかったときに、医療チームが再整理する「治療の目的」
  • 局所再発・遠隔転移それぞれにおける治療のイメージ
  • がんを「長く付き合う病気」として捉える視点
  • 情報や生活、心の支え方のヒント

を整理しました。

ごく短くまとめると、

「再発・転移」は、がんとの戦いのゴールが変わるサインであり、治療の目的を『根治』から『長期コントロール』や『生活の質の維持』へと柔軟にシフトさせていく合図

と捉えることもできます。

次回以降は、

  • 標準治療と臨床試験の基本的な考え方
  • セカンドオピニオンの意味と上手な活用方法
  • 患者さん自身が意思決定に参加するためのポイント

といったトピックを、入門編としてわかりやすく解説していく予定です。


この記事は Morningglorysciences チームによって編集されました。
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、具体的な診断・治療方針については必ず主治医とご相談ください。

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この記事を書いた人

大学院修了後、米国トップ研究病院に留学し本格的に治療法・治療薬創出に取り組み、成功体験を得る。その後複数のグローバル製薬会社に在籍し、研究・ビジネス、そしてベンチャー創出投資家を米国ボストン、シリコンバレーを中心にグローバルで活動。アカデミアにて大学院教員の役割も果たす。

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