抗体薬物複合体(ADC: Antibody-Drug Conjugate)は、がん治療をはじめとする様々な領域で注目されている次世代の薬剤です。第2回では、ADCを構成する3つの基本要素—抗体・リンカー・薬物(ペイロード)—について、それぞれの役割や設計の工夫、またその組み合わせによるADCの種類について、やさしく丁寧に解説します。
1. 抗体:標的細胞を見つけ出すセンサー
抗体は、がん細胞などの標的となる細胞表面に存在する特定のタンパク質(抗原)を認識します。これにより、ADCは正常な細胞ではなく病変部位に集中的に作用することが可能になります。
- モノクローナル抗体(mAb)が主に使用され、ヒト化・完全ヒト抗体が安全性の観点から好まれます。
- 抗原との結合力(親和性)と内部化効率(internalization efficiency)が設計上の重要なポイントです。
2. リンカー:安定性と放出タイミングをコントロール
リンカーは、抗体と薬物をつなぐ“橋”のような役割を果たします。体内で分解されずに標的細胞までたどり着き、細胞内で特定の条件に応じて薬物を放出することが理想的です。
- 切断型リンカー:酵素やpHの変化に反応して薬物を放出
- 非切断型リンカー:抗体の分解によって薬物が放出される
- 血中での安定性と、細胞内での放出性のバランスが重要です
3. 薬物(ペイロード):標的細胞を攻撃する兵器
抗体によって標的細胞に届けられた薬物は、細胞内に入って作用し、細胞を死滅させます。非常に強力な細胞障害性をもつ化合物が選ばれます。
- マイトマイシン系・チューブリン阻害剤・DNA切断薬などが代表的
- ナノモルレベルでも効果を示すほど高活性であるため、適切なターゲティングが必須
4. ADCの種類:構造の違いが機能に影響する
ADCは、これらの要素の選択と組み合わせにより多様なバリエーションが存在します。
- 結合部位の違い(ランダム vs. 部位特異的)
- 薬物の数(DAR: Drug-to-Antibody Ratio)
- リンカーの設計により副作用プロファイルも変化
ADCの進化は、これら3要素それぞれの最適化と、新技術の導入により加速しています。次回は、現在承認されている主要ADCと、技術の系譜について解説します。
次回予告:第3回「代表的なADC医薬品とその技術的特徴」
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