CAR-T療法は血液がん治療における画期的アプローチとして注目を集めてきましたが、従来は患者から採取したT細胞を体外で遺伝子改変・培養して戻す「ex vivo製造」が必要でした。この製造工程は高コスト・長期間・限定的な施設依存性といった課題があり、普及の大きな壁となってきました。
近年、次世代の**in vivo CAR T**(体内CAR-T)技術が注目を集めています。これは患者体内で直接T細胞に遺伝子導入を行い、CAR-T細胞を生成するアプローチです。もし実現すれば、製造時間短縮・コスト低減・即日投与が可能となり、治療アクセスが大幅に広がる可能性があります。
in vivo CAR T技術の多様なアプローチ
- mRNA + LNP(脂質ナノ粒子):Capstan Therapeutics、Orna Therapeuticsなどが開発。mRNAは可逆的で安全性が高い可能性。
- ウイルスベクター型:Interius BioTherapeuticsはCD7標的ウイルスを活用しT細胞特異的導入を目指す。
- レンチウイルス改良型:Umoja Biopharmaは受容体選択型レンチウイルスで高効率導入を狙う。
- 臨床段階の企業:EsoBiotecが既に臨床試験を開始。
安全性の大きなメリット
RNAベースでは遺伝子改変が一時的に留まるため、サイトカインストームなど過剰免疫反応のリスク低減が期待されます。また、治療効果を制御しやすく「ブレーキをかけやすい」点もin vivo技術の特徴です。
適応拡大の可能性
従来の血液がんに加え、自己免疫疾患(例:全身性エリテマトーデス)への応用や固形がんへの展開も研究が進んでいます。
出典:Nature News Feature (2025年6月), 記事リンク
【ひとこと】
in vivo CAR Tは、細胞治療のボトルネックだった製造・物流の問題を根本から変える可能性を秘めています。一方で、導入効率・標的特異性・長期安全性など慎重な検証も必要です。今後この分野は、創薬技術・デリバリー技術・免疫学が交差する複合領域としてますます注目を集めると感じます。このシリーズでも最新動向を随時追っていきます。
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