「がん細胞だけを狙う」と言われるCAR-T細胞療法ですが、その精度はどのようにして決まるのでしょうか?その鍵を握るのが“標的抗原”の選定です。本記事では、in vivo型CAR-Tの開発において重要な「がん特異性」と「正常組織との識別性」に焦点をあてて、基礎から最前線までをわかりやすく解説します。
目次
1. なぜ標的抗原の選定が重要なのか?
CAR-T療法は、細胞の表面に存在する“抗原”を標的にして攻撃を行います。したがって、治療効果と安全性は「どの抗原を選ぶか」に大きく依存しています。
例えば、がん細胞にしか存在しない抗原を標的にできれば、正常細胞を傷つけずに治療が行えます。しかし、実際にはがん細胞と正常細胞で共通する抗原も多く、「がん特異性の高い標的」を見つけることは大きな課題です。
2. 標的抗原の分類と代表例
標的抗原は、主に以下のように分類されます。
- がん特異的抗原(TSA: Tumor-Specific Antigens)
がん細胞にだけ発現している抗原。例:ウイルス由来抗原(HPV由来E6/E7など)。 - がん関連抗原(TAA: Tumor-Associated Antigens)
正常細胞にも低レベルで発現するが、がん細胞で異常に高発現。例:CD19(B細胞系)、HER2(乳がん)、CEA(大腸がん)。 - 新生抗原(Neoantigens)
がん細胞の遺伝子変異に由来する個別的抗原。免疫原性は高いが患者ごとに異なる。
特にCD19は、B細胞白血病やリンパ腫において臨床的に成功した代表的なTAAです。ただし、正常なB細胞も攻撃対象になるため、一時的な免疫抑制や補充療法との併用が必要になります。
3. 抗原選定における課題と最新アプローチ
抗原選定の最大の課題は、「がん細胞に選択的に発現する抗原」が限られていることです。また、固形がんでは抗原の不均一性(heterogeneity)や、腫瘍局所での抗原喪失(抗原エスケープ)も頻繁に起こります。
こうした課題への対策として、以下のようなアプローチが注目されています:
- 二重CAR(二重特異性CAR):2つの異なる抗原を同時に認識しなければ攻撃しない、安全性を高めた設計。
- ロジックゲート型CAR:「AND」「NOT」など論理式を応用して、より複雑な判断を可能にする。
- プロモーター制御型発現:がん組織で特異的に活性化されるプロモーターを利用し、正常組織での発現を抑制。
4. 今後の展望とin vivo型への応用
in vivo型CAR-Tは、患者体内で直接T細胞を改変するという特性上、「オフターゲット毒性(正常組織への誤攻撃)」の制御が従来以上に重要です。そのため、標的抗原の厳密な選定はin vivo型においてさらに重要になります。
また、mRNA導入やウイルスベクター、LNPなどを用いるin vivo型では、一時的な発現や組織特異的な送達設計によって、安全性と標的特異性を高める工夫が続けられています。
5. 次回予告と関連記事リンク
次回は、CAR構造そのものにフォーカスし、「共刺激分子」や「シグナル伝達設計」がin vivo型CAR-Tの効果と持続性にどう関わるのかを解説します。
🔗 関連記事・シリーズリンク



この記事はMorningglorysciences編集部によって制作されました。
コメント