JPM2026を象徴する空気のひとつが、「会場は混んでいるのに、超大型M&Aが出ない」という感覚でした。これは単なる偶然ではなく、現在の資本市場と製薬各社の置かれた条件が生む“構造”です。加えて、早期バイオは資金調達が難しく、後期(デリスク済み)資産に資金が偏りやすい。一方で、優先審査バウチャー(PRV)や提携設計など、ディールの形はむしろ多様化し、見え方を変えながら確実に動いています。
本稿(第2回)は、JPM2026で観測された資金・BD(Business Development)の潮流を、「なぜメガディールが出にくいのか」「資金はどこに集まり、どこが締まっているのか」「企業はどうやってリスクと価格を調整しているのか」という視点で整理します。重要なのは、“買う・買わない”の表層ではなく、資本コストと確率(デリスク)を前提にした意思決定のルールです。
- メガディール不在は「異常」ではなく「最適化」の結果
- 資金の向き:早期が締まり、後期が選好される理由
- BDは止まっていない:形が変わっただけ
- 短期触媒(PRV・規制・供給)と資本市場の“取引”
- 2026年に勝てる会社の条件(資本効率・設計・データ)
- My Thoughts and Future Outlook
メガディール不在は「異常」ではなく「最適化」の結果
“大型買収”は、最も高くつく意思決定になりやすい
メガディールが出にくい最大の理由は、統合リスクと価格の非対称性です。大型案件ほど、買い手は統合(人・文化・研究開発の優先順位・商用組織)という複雑なリスクを背負います。一方、売り手は“時間価値”を盾に評価を押し上げやすい。つまり、メガディールは「確率×時間×資本コスト」の観点で、最も割に合わない取引になりやすいのです。
「買う必要がある」ほど、足元を見られやすい
特許クリフや成長鈍化が近い企業ほど、市場も相手も“時間制約”を知っています。そこに大型案件をぶつけると、買い手は“救済”と見なされ、交渉上の弱みになります。JPMの場で、各社が強気の姿勢や資本規律を強調するのは、単なるPRではなく、交渉の防衛線でもあります。
メガディールがなくても、BDは“日常業務”として進む
重要なのは「超大型がない=BDが止まっている」ではない点です。むしろ現場では、複数の中型ディール、段階支払い、共同開発、地域権利、オプション条項など、リスクを刻む設計が増えています。メガディール不在は、BDの停止ではなく、資本効率に合わせた再設計と捉える方が現実に近いでしょう。
資金の向き:早期が締まり、後期が選好される理由
資金は“デリスク”に集まる:データの価値が上がった
現在の資本市場では、同じ“期待値”でも、確率が高い方に資金が寄ります。言い換えると、Phaseが進み、規制上の見通しが立ち、商用仮説が立つほど資金がつきやすい。これは冷淡に見えますが、資本コストが上がりやすい環境では合理的です。早期バイオは「良いアイデア」だけでは資金が足りず、データで確率を上げることが必要になります。
早期の厳しさは“科学の評価”ではなく“資本のルール”
早期が締まる局面では、「科学が悪いから」ではなく「資本が求める確率に届いていないから」資金がつきません。だからこそ、早期企業には二つの道が現れます。ひとつは、短期間でデリスクできる実験設計・臨床設計を作り、確率を上げにいく道。もうひとつは、資金を使い切る前に、大手と共同でデリスクする(共同研究・共同開発・オプション)道です。
IPO回帰の兆しは「万能」ではない:上場後のストーリーが問われる
IPOが完全に閉じているわけではありません。しかし上場が可能になっても、上場後に「次のデータ」「次の資金」をつなげられなければ意味がない。上場はゴールではなく、資本市場の中で確率を上げ続けるための手段です。JPMで“IPO復活”が語られる時ほど、投資家は「上場後の継続データと資金計画」を冷静に見ています。
BDは止まっていない:形が変わっただけ
共同開発・オプション・段階支払い:リスクを刻む設計が主流に
買い手が避けたいのは、確率が低い段階で大きな前払いを抱え込むことです。そこで、マイルストーン払い、共同開発、地域権利の分割、オプション行使、共同販促など、リスクを段階的に移転する設計が増えます。これにより買い手は下振れを抑え、売り手は成功時の上振れを取りにいく。JPMの雰囲気は、この“確率に合わせた契約設計”が一般化していることを示していました。
「何を買うか」より、「どの確率で・いくらで買うか」へ
議論の中心は、領域の人気よりも、確率と価格の整合です。たとえば、競争が過密な領域では、後追いの商業リスクが増えるため、同じ薬効でも価値が下がりやすい。逆に、供給・製造・アクセス設計まで含めて勝ち筋が立つなら、評価がつきやすい。BDは、科学だけでなく商業と実装を含む“勝ち筋の計算”の世界に、より強く移っています。
CEOコメントは「情報」ではなく「交渉ポジションの宣言」になりやすい
JPMのCEO発言は、外部に計画をすべて開示する場ではありません。特に特許クリフや時間制約を抱える企業ほど、弱みを見せるほど交渉は不利になります。したがってコメントは、投資家向けの安心材料というより、売り込み(売り手側)に足元を見られないための姿勢表明として機能する場合があります。プロの投資家は、言葉をそのまま受け取らず、背景(パイプライン、時間軸、資本配分)から“本音の行動”を推定します。
短期触媒(PRV・規制・供給)と資本市場の“取引”
PRVは“時間を買う”金融商品:買い手の事情が価格を作る
優先審査バウチャー(PRV)は、薬の価値というより「承認までの時間」を買う手段です。時間短縮が売上の立ち上がりと競争優位に直結する局面では、PRVは企業価値に大きく効きます。これはJPMの場でも、資本市場が“規制時間”を資産として評価することを可視化しました。つまり、ディールは薬だけでなく、時間・制度・供給の制約を取引しています。
規制のノイズは「一過性」ではなく、資本コストに跳ね返る
薬価・償還・規制の不確実性は、将来キャッシュフローの割引率を上げます。割引率が上がれば、前払いは減り、マイルストーンが増え、買い手は守りに寄ります。政策は“ニュース”ではなく、BDの契約条件そのものを変える変数です。
供給の制約は“製造投資”と“提携”を呼び込む
需要が伸びる領域では、供給は価値の源泉になります。供給能力を作るための投資や、CDMOを含む提携は、単なるコストではなく成長戦略です。資本市場は、供給がボトルネックになり得ることを理解しており、製造・供給の手当てができている企業を評価しやすい局面が続きます。
2026年に勝てる会社の条件(資本効率・設計・データ)
勝ち筋①:デリスクの設計が速い(短期で確率を上げられる)
資本市場が求めるのは「大きな夢」だけではなく、「次の12〜24か月で確率を上げる設計」です。臨床・薬事・商用の仮説を、短いサイクルで検証できる企業は資金がつきやすい。逆に、長い時間を要して途中の検証点が乏しい計画は、資金が途切れやすくなります。
勝ち筋②:契約で確率を刻む(資本と相手のルールを理解している)
良い企業ほど、単純な買収を待つのではなく、共同開発・オプション・段階支払いなどで資金と確率をつなぎます。買い手は下振れを抑え、売り手は成功時の上振れを取る。この“確率の分担”を設計できるチームが強い。
勝ち筋③:商業仮説が現実的(差別化が薬効だけに依存しない)
競争が過密な領域では、薬効の差だけでは勝てません。価格、供給、アクセス、患者体験、規制環境への適応まで含めた勝ち筋を描ける企業が評価されます。JPM2026は、ディールが「科学の取引」から「実装の取引」へ移っていることを、資本市場の言語で示しました。
My Thoughts and Future Outlook
JPM2026の“メガディール不在”は、熱が冷めたのではなく、資本コストと統合リスクを前提にBDが最適化されているサインだと捉えています。買い手は「大きく賭ける」よりも、「確率に合わせて刻む」方向へ動き、早期バイオは夢の大きさではなく、短期で確率を上げるデータ設計が問われる局面です。結果として、ディールは減ったのではなく形を変え、オプションや共同開発、段階支払いが標準化していくでしょう。投資家として重要なのは、ニュースの派手さよりも、企業が次の12〜24か月で確率を上げる設計を持ち、資本市場のルールに沿って資金と提携をつなげられるかです。2026年は“言葉の強さ”より“確率の上げ方”が評価を決める年になると見ています。
Morningglorysciences Team edited
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