序章:Novoのレイオフ発表が象徴する業界の転換
2025年9月、Novo Nordiskは全従業員の約12%にあたる9,000人規模のレイオフを発表しました。背景には、GLP-1肥満薬市場の過熱と競争激化、そしてEli Lillyの圧倒的な攻勢があります。Novoは経営資源をスリム化し、AmycretinやCagriSemaといった次世代候補薬へ集中する再編戦略を打ち出しました。これは単なるリストラではなく、グローバル肥満薬市場の「第二ラウンド開幕」を告げる出来事と捉えられます。
GLP-1肥満薬の現行主力と課題
現在、市場を牽引するのはNovo Nordiskのセマグルチド(Wegovy)と、Eli Lillyのチルゼパチド(Zepbound/Mounjaro)です。いずれも10~15%以上の体重減少を示し、糖尿病治療から肥満治療まで幅広く使われています。しかし、課題も明らかです。高コスト、長期服用に伴う安全性、そしてサプライチェーンの逼迫です。FDAは未承認の調剤製品を排除する方向に舵を切り、流通の健全化を進めています。
次世代パイプラインの主役たち
今後の注目は「二重・三重作動薬」や「経口製剤」です。Eli Lillyは経口GLP-1であるOrforglipronのP3試験に成功し、年内にも申請を予定。注射不要の利便性は市場拡大に直結します。また、同社のRetatrutide(三重作動薬)はNEJM掲載のデータで圧倒的な減量効果を示しました。
NovoはAmycretin(GLP-1+アミリン)やCagriSema(セマグルチド+アナログ)を開発中で、20%超の減量効果を狙います。AmgenのMariTide(月1回投与)、BI/ZealandのSurvodutide(GLP-1+グルカゴン)、VikingのVK2735(経口二重作動)など、多彩なプレイヤーが参戦し、差別化のカギは「効能の幅」や「投与利便性」にあります。
科学的進展と差別化の軸
- GLP-1単独(Semaglutide, Orforglipron) → 経口化で裾野拡大
- 二重作動(GLP-1+GIP/グルカゴン) → MASHや代謝疾患領域に拡張
- 三重作動(Retatrutide) → 最大級の体重減少+心血管リスク低減の検証中
- アミリン併用(Amycretin) → 食欲抑制・胃排出遅延との相乗効果
- 月1製剤(MariTide) → 長期アドヒアランス改善の可能性
産業トレンドと投資的示唆
1. 短期: 経口GLP-1の上市は市場の地殻変動点。裾野拡大に伴い、保険者のコスト圧力が増す。
2. 中期: 二重・三重作動薬時代に突入し、肥満のみならずMASH・心腎アウトカムでの差別化が重要。
3. 長期: アウトカム連動型の価格設定や、リアルワールドでの安全性評価がカギとなる。
前編まとめ
Novoのレイオフは単なる人員削減ではなく、次世代薬にシフトする戦略的再編です。競争の舞台は、単独GLP-1から二重・三重作動、さらには経口化・月1製剤へと移行しつつあります。次回の後編では、こうした新薬群を実際に患者に届ける上で最重要の「薬価・保険アクセス」を日米欧で比較します。
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この記事はMorningglorysciencesチームによって編集されました。
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