2025年6月号のNature Biotechnology誌に、個別化mRNAがんワクチン開発の現状を総括する総説論文が掲載されました。近年、患者ごとのネオアンチゲン(腫瘍特異的変異抗原)を標的とするmRNAワクチンが、がん免疫療法の新たな選択肢として注目を集めています。
先行企業の臨床成果
モデルナとメルクが共同開発するmRNA-4157は、悪性黒色腫患者を対象とした臨床試験で再発および死亡リスクを49%低減する有望な結果を報告しています(2023年ASCO)。この成功により、個別化mRNAワクチンの商業化に向けた動きが一段と加速しています。
ネオアンチゲン選定の課題とAI活用
個別化ワクチンの中核は「どの変異抗原を選ぶか」にあります。MHCクラスI提示抗原の予測は進展していますが、MHCクラスII抗原の予測精度は依然として課題が残ります。AI技術を活用したネオアンチゲン選定アルゴリズムが各社で導入されつつあります。
主要企業プレイヤーと開発状況
- Moderna/Merck
- BioNTech
- Genentech
- Transgene+NEC(日本のNECがAI解析で提携)
- CureVac
- Nouscom
- NeoCura(中国)
固形がん適応への広がり
メラノーマに加え、大腸がん・膵臓がん・腎がん・頭頸部がんなど様々な固形がんでの適応拡大が検討されています。
製造・規制課題
個別化製造の複雑さにより、薬事規制や医療機器規制との統合的枠組みが検討されています。
出典:Nature Biotechnology (2025年6月), 論文リンク
【ひとこと】
個別化mRNAがんワクチンは、がん免疫療法の新たな時代を切り拓く可能性を持ちながらも、製造実現性や抗原選定精度、費用対効果といった多層的な課題を抱えています。今後はAIの活用、規制整備、商業モデル構築を含めた多面的な進化が求められると感じます。本シリーズでも引き続き最新動向を追っていきます。
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