Claudin18.2(CLDN18.2)を標的とする抗体薬物複合体(ADC)は、近年進行胃がんおよび食道胃接合部(GEJ)がんにおける新しい治療モダリティとして注目されています。本記事では、2025年7月にNature Medicineに発表されたSHR-A1904の第1相試験について詳細に整理し、臨床的意義と今後の展望を検討します。
背景:胃がん治療とCLDN18.2の位置づけ
胃がんおよびGEJがんは世界的に依然として死亡率が高い疾患であり、特に東アジアにおける罹患率は突出しています。近年、HER2陽性腫瘍に対する抗HER2 ADCや免疫チェックポイント阻害薬の導入が治療体系を変化させましたが、HER2陰性あるいは免疫不応の患者に対しては有効な治療選択肢が限られています。
この中で、胃粘膜に特異的に発現するタイトジャンクション蛋白であるCLDN18.2が新たな治療標的として注目され、抗体療法(Zolbetuximab)に続いてADCの開発が加速しています。
薬剤概要:SHR-A1904の構造と特徴
SHR-A1904は、中国のJiangsu Hengrui Pharmaceuticalsが開発したADCであり、CLDN18.2特異的モノクローナル抗体に、DNAトポイソメラーゼI阻害剤をペイロードとして結合させた構造を持ちます。リンカーはペプチドベースで、腫瘍細胞内で切断され薬物が放出される設計です。
この設計は、免疫細胞活性化に依存する抗体単独療法(例:Zolbetuximab)と異なり、直接的に腫瘍細胞を殺傷できる点に特徴があります。
第1相試験デザイン
本試験(NCT04877717)はFirst-in-humanの多段階試験で、以下の構成で実施されました。
- 対象:CLDN18.2陽性の進行胃/GEJがん患者95例(既治療)
- 用量漸増:0.6〜8.0 mg/kg
- DLT:4.8 mg/kgで発熱性好中球減少症、6.0 mg/kgで胃粘膜障害などが観察されたが、最大耐用量(MTD)は未到達
- 拡大コホート:6.0 mg/kgおよび8.0 mg/kgで評価
安全性プロファイル
全患者で治療関連有害事象(TEAE)が認められました。主なものは以下の通りです。
- 貧血:75.8%
- 悪心:67.4%
- 低アルブミン血症:64.2%
- 白血球減少:58.9%
Grade 3以上の有害事象は62.1%に発生しましたが、治療関連死は認められませんでした。
有効性の結果
奏効率(ORR)は以下の通りでした。
- 6.0 mg/kg群:24.2%(95%CI: 11.1–42.3)
- 8.0 mg/kg群:25.0%(95%CI: 12.1–42.2)
無増悪生存期間(PFS)の中央値は、6.0 mg/kgで5.6か月、8.0 mg/kgで5.8か月と報告されました。
臨床的意義
SHR-A1904は、既治療例という難治集団においても一定の有効性を示しました。注目すべきは、ORRが20%台と高率ではないものの、従来の化学療法(トリフルリジン+チピラシルなど)に匹敵あるいはそれ以上のアウトカムを示した点です。また、ADCの特徴として免疫環境に依存せず腫瘍殺傷が可能であり、Zolbetuximab不応例にも適応拡大の可能性があります。
私の考察
SHR-A1904の臨床結果は、Claudin18.2 ADCの可能性を裏付ける重要なステップです。しかし以下の課題も残されています。
- 毒性管理:Grade 3以上のAEが6割を超えており、今後は投与スケジュールの最適化や支持療法の強化が必要です。
- バイオマーカー戦略:高発現群と中等度発現群での効果差を検討し、適格基準を洗練させる必要があります。
- 比較試験:既存のZolbetuximabや他ADC(例:IBI343)との比較でポジショニングを確立することが今後の焦点です。
- コンビネーション:免疫チェックポイント阻害剤や化学療法との併用試験が有効性拡大に寄与する可能性があります。
総じて、SHR-A1904は「第1相の壁」を越えて次段階に進むだけの有望性を示しましたが、実臨床での位置づけを確立するには、より大規模かつ国際的な比較試験が不可欠だと考えます。
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この記事はMorningglorysciencesチームによって編集されました。
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