ナチュラルキラー(NK)細胞は従来、腫瘍監視の最前線を担う「抗腫瘍エフェクター」として理解されてきました。しかし近年の研究は、腫瘍微小環境におけるNK細胞の役割が単純ではないことを示しています。特に免疫チェックポイント阻害剤(ICB)治療の効果を阻む要因として、NK細胞が新たに注目されています。本記事(Part 1)では、最新の論文を基に、NK細胞がいかにして抗腫瘍免疫を妨害し得るのかを整理します。
NK細胞の基本機能と従来の理解
NK細胞は自然免疫系の重要なリンパ球であり、MHCクラスIの発現が低下した異常細胞を感知して排除します。この特性により、ウイルス感染細胞や腫瘍細胞を迅速に攻撃する能力を持ちます。従来は「抗腫瘍の守護者」としての側面が強調されてきました。
腫瘍微小環境でのNK細胞の変容
腫瘍内ではNK細胞が活性化されず、むしろ免疫抑制的な挙動を示すことが明らかになっています。これには以下の要素が関与しています。
- サイトカイン利用競合:NK細胞がIL-2やIL-15を優先的に消費し、CD8+ T細胞の増殖・分化を阻害する。
- T細胞浸潤阻害:NK細胞がケモカイン経路(例:CX3CR1)を介して腫瘍内に集積し、T細胞の腫瘍内進入を妨害する。
- 免疫抑制因子誘導:TGF-βなどの因子を介して腫瘍免疫抑制環境を増強する。
CD8+ T細胞分化阻害(Songら, 2023)
Songらの研究では、腫瘍関連NK細胞がCD8+ T細胞の分化プログラムを歪め、ICBに対する反応性を低下させることが示されました。具体的には、NK細胞がIL-2シグナルを消費することで、CD8+ T細胞が「幹細胞様」から「消耗型」へシフトし、長期的抗腫瘍免疫が損なわれることが報告されています。
免疫排除型腫瘍におけるNK細胞(Pozniakら, 2024)
Pozniakらは、免疫排除型フェノタイプを持つ腫瘍において、NK細胞が腫瘍境界部に集積し、T細胞の腫瘍内浸潤を妨げる役割を担うことを報告しました。特にCX3CR1経路が重要であり、この経路を遮断することでT細胞の腫瘍浸潤が回復し、ICB効果が改善する可能性が示唆されています。
メラノーマにおける臨床観察(Perez-Ruizら, 2023)
メラノーマ患者において、腫瘍内NK細胞が豊富な症例ほどICBへの反応性が低いことが観察されています。特に「免疫排除型」腫瘍においてこの傾向が顕著であり、NK細胞が「治療抵抗性のドライバー」として機能する可能性を裏付けています。
まとめ
以上の知見から、腫瘍微小環境におけるNK細胞は「両刃の剣」であることが明らかになりました。抗腫瘍効果を担う一方で、T細胞免疫を阻害しICB治療の効果を低下させる可能性があります。
私の考察
これまでNK細胞は「活性化すれば有益」という前提で免疫療法の標的とされてきました。しかし今回の研究群は、NK細胞を無条件に強化する戦略が必ずしも望ましくないことを示しています。今後は腫瘍内のNK細胞サブセットを精緻に理解し、「抑制的NK細胞を抑える」戦略と「抗腫瘍NK細胞を活性化する」戦略を両立させる必要があると考えます。
この記事はMorningglorysciencesチームによって編集されました。
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