【2025年10月版】KRASワクチン最前線マップ|Elicio・SLATE・学術SLPを横断比較(術後MRD×オフ・ザ・シェルフ時代)

要点:共有ネオ抗原 × オフ・ザ・シェルフ × 術後MRDが主戦場。Elicio(ELI-002 7P)が先頭集団、学術SLP+poly-ICLC、Gritstone(SLATE-KRAS)が追随。V941(mRNA共有KRAS)の停止で勢力図が整理。

目次

目次

  1. KRASワクチンが注目される理由
  2. 主戦場:術後アジュバント/MRD
  3. 主要プレイヤーと方式別マップ
  4. 横断比較:実装性・抗原幅・デリバリー・併用
  5. 読者別:ここだけは押さえる
  6. 今後6–12か月の注目イベント
  7. FAQ(よくある質問)
  8. 今後の展望(編集部・私見)
  9. 次回予告|第2部「AMPLIFY-201 最終解析」

1. KRASワクチンが注目される理由

KRAS変異はヒト固形がんの約20–25%で見られ、とくに膵管がん(PDAC)や大腸がん(CRC)で高頻度。KRASは腫瘍の成長を司るドライバー変異であり、がん特異的な共有ネオ抗原としてワクチンの標的に理にかないます。

  • 公共性:症例横断で再現性の高い標的(G12/G13変異群)。
  • 治療学的妙味:分子標的薬と補完し得る「免疫による面的制御」。
  • 検証手段:ctDNA(微小残存病変:MRD)で効果の見える化が可能。

2. 主戦場:術後アジュバント/MRD

「腫瘍量が最も少ない」術後/補助療法ラインで免疫を先に立ち上げる戦略が主流です。MRD陽性(ctDNAや腫瘍マーカーで検知)患者を的確に拾い、再発リスクが高い層にワクチンを届ける設計が鍵になります。

ここで重要になるのが免疫KPI(T細胞応答の量・質)とctDNA陰性化の連結です。

3. 主要プレイヤーと方式別マップ

A. Amphiphileペプチド(リンパ節送達)|Elicio Therapeutics:ELI-002(2P→7P)

  • デザイン:アルブミン結合のamphiphileでリンパ節送達を最適化し、CD4/CD8を強く誘導。
  • ポジション:術後MRDのアジュバントが主戦場。オフ・ザ・シェルフ×多変異(7P)で適用人口を広げる方針。
  • 進捗の要点:Phase 1最終で免疫応答と転帰(RFS/OS)の相関を可視化。無作為化Phase 2(PDAC)は継続判定・免疫原性の高率報告がアップデート。

B. 共有ネオ抗原固定セット|Gritstone bio:SLATE-KRAS

  • 狙い:HLA要件を踏まえつつ、KRAS共有変異を固定パネル化(プラグ&プレイ志向)。
  • 差別化:学術/他社がICI併用を磨く一方、GritstoneはTCR細胞療法+ワクチンで深いクローン抑制を探る。

C. 学術主導:合成ロングペプチド(SLP)+poly-ICLC(±ICI)

  • 設計:G12D/V/R/C/AやG13Dなど最大6エピトープのSLPプールにpoly-ICLCを組み合わせ、ICI併用でブースト。
  • 適応:切除後PDAC/CRCから、転移例の維持療法ラインまで探索が進行。

D. mRNA共有KRAS(汎用)|Moderna×Merck:V941(mRNA-5671)

  • 現況:事業判断によりP1停止が公表され、共有KRASのmRNAは一旦後退。
  • 含意:オフ・ザ・シェルフ(ペプチド)と学術SLP陣営に注目が集まる構図へ。

4. 横断比較:実装性・抗原幅・デリバリー・併用

Amphiphile(ELI-002)SLATE-KRAS学術SLP+poly-ICLCmRNA共有KRAS
実装性(TAT/コスト)◎(オフ・ザ・シェルフ)○(HLA条件考慮)○(院内実装も可)△(事業停止で後退)
抗原幅◎(7PでG12/G13広範)○(固定パネル)○(設計次第)○(設計自在だが停止)
デリバリー◎(リンパ節送達最適化)○(ベクター/配信依存)○(SLP+アジュバント)○(mRNAプラットフォーム)
併用戦略○(術後MRD+ICI等)◎(TCR+ワクチン)◎(デュアルICI等活発)
主戦場術後MRD(PDAC中心)固形がん広域(HLA依存)PDAC/CRC(術後〜維持)初期段階で停止

実務的ポイント:「誰に(HLA/変異)」「いつ(術後MRD)」「どう測る(免疫KPIとctDNA)」を一気通貫で設計できるかが勝ち筋です。

5. 読者別:ここだけは押さえる

一般・入門者

  • 術後の再発“予備軍”を血液で検知(ctDNA)→ワクチンで再発を遅らせる構図。
  • 重篤な新規安全性は目立たず、継続投与設計が可能。

研究者・バイオテック・臨床

  • 免疫量のしきい値転帰の相関をどう前向き検証するか。
  • 抗原スプレッディングメモリーCD8の質をどう磨くか。
  • HLA・変異頻度に応じた適用人口設計と供給スキーム。

6. 今後6–12か月の注目イベント

  1. ELI-002 7P(PDAC無作為化P2):登録・中間・最終DFS。免疫KPIとctDNA陰性化の整合。
  2. 学術SLP+ICI:安全性・免疫相関・ctDNA動態の拡充(ASCO/ESMO系)。
  3. SLATE-KRAS×TCR:早期リードアウトの質(深さ・持続)。

7. FAQ(よくある質問)

Q. KRASワクチンは誰に効きやすい?

A. KRAS変異(G12/G13)のある術後MRD陽性患者で、免疫応答がしっかり立つほど(例:しきい値超え)転帰の相関が期待されます。 Q. 既存の分子標的薬との違いは?

A. 分子標的薬が特定の変異クローンを点で抑えるのに対し、ワクチンは免疫で面的に広くクローンを制御し、再発長期抑止を狙います。 Q. 併用は必要?

A. MRDでの単剤も理にかないますが、ICITCR細胞療法との順序・用量最適化は次の差別化ポイントです。

8. 今後の展望(編集部・私見)

「(①免疫KPI)×(②ctDNA陰性化)×(③スプレッディング)」という複合サロゲートの確立が、承認戦略と実装拡大のハブになります。術後クリニカルパスに「ゲノム診断→ctDNA→ワクチン→モニタリング」を定着させ、適用人口(HLA/変異)と供給体制を両輪で磨ける陣営が先行するでしょう。

9. 次回予告|第2部「AMPLIFY-201 最終解析」へ

次回は、ELI-002(2P)のPhase 1最終結果にフォーカス。免疫量しきい値(9.17倍)RFS/OS・ctDNAがどう連結するのか、図解と読者別ポイントで深掘りします。

(この編集はMorningglorysciencesチームによって編集されました。)

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この記事を書いた人

大学院修了後、米国トップ研究病院に留学し本格的に治療法・治療薬創出に取り組み、成功体験を得る。その後複数のグローバル製薬会社に在籍し、研究・ビジネス、そしてベンチャー創出投資家を米国ボストン、シリコンバレーを中心にグローバルで活動。アカデミアにて大学院教員の役割も果たす。

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