Claudin18.2 ADC開発 Part 2:IBI343第1相試験の結果と臨床的特徴

本記事では、Nature Medicineに2025年7月に報告されたIBI343(Innovent Biologics開発)の第1相試験を整理し、構造上の特徴、安全性、有効性、そしてClaudin18.2 ADC開発の流れの中での位置づけについて解説します。

薬剤概要:IBI343の分子設計

IBI343は、完全ヒト化抗CLDN18.2抗体Exatecan(DNAトポイソメラーゼI阻害剤)を結合させたADCです。独自の糖鎖部位(N297)を利用した部位特異的結合技術により、薬物–抗体比(DAR)を4で安定化し、血中での薬物脱落を最小化しました。

さらに、FcサイレンスIgG1骨格を採用しており、抗体依存性細胞傷害(ADCC)や補体依存性細胞障害(CDC)を抑制することで、CLDN18.2が正常胃粘膜に発現することによるオンターゲット毒性(悪心・嘔吐)を軽減する工夫がなされています:contentReference[oaicite:0]{index=0}。

試験デザイン

本試験(NCT05458219)は、進行胃がん/GEJがん患者を対象とした第1相用量漸増+拡大試験であり、以下のように設計されました。

  • 対象:127例(漸増19例、拡大量108例)、全例が既治療群
  • 投与:0.3〜10 mg/kgを3週ごとに静注
  • 推奨第2相用量(RP2D):6 mg/kg Q3W
  • CLDN18.2発現評価:Ventana CLDN18 (43-14A) IHCアッセイを用い、低(<40%)、中等度(40–74%)、高発現(≧75%)に分類

安全性プロファイル

安全性は本試験の主要評価項目の一つであり、結果は以下の通りです。

  • 全体で97.4%に治療関連有害事象(TEAE)が発生
  • Grade ≥3 TEAEは66.4%、治療関連AEは52.6%
  • 最も多い有害事象は血球減少(白血球減少 67.2%、貧血 64.7%、好中球減少 58.6%)
  • 消化器系有害事象は比較的少なく、間質性肺疾患(ILD)は報告なし

特に注目すべきは、従来のADCに頻発する消化器毒性が低減していた点であり、Fcサイレンス設計の意義が裏付けられました。

有効性の結果

高発現群(≧75%)での成績:

  • 6 mg/kg群:ORR 29.0%、病勢制御率(DCR)90.3%、PFS中央値 5.5か月
  • 8 mg/kg群:ORR 47.1%、DCR 88.2%、PFS中央値 6.8か月

中等度発現群(40–74%)ではORR 38.8%、低発現群(1–39%)では奏効例なしと報告されました。

臨床薬理とPK

IBI343は0.3〜10 mg/kgの範囲で線形PKを示し、半減期は約2週間でQ3W投与に適合しました。DARの安定性により血中での遊離ペイロード発生が最小化され、ADCと抗体総量の曝露が高い相関(r ≥0.85)を示した点は特筆されます。

これにより、血中抗体量を曝露の代替マーカーとして利用可能であり、臨床開発上の解析を簡素化する利点があります。

臨床的意義

IBI343はFcサイレンス構造により従来型抗体療法の問題点を改善しつつ、ADCとして安定した薬物動態と有効性を示しました。特に8 mg/kg群ではORR 47.1%と高い奏効率を示した一方で、毒性が増加する傾向があり、6 mg/kgが最適バランスと判断されています。

この結果は、Zolbetuximabに不応な患者集団にも新しい治療選択肢を提供できる可能性を示しています。

私の考察

IBI343は、技術的工夫(Fcサイレンス、糖鎖部位特異的DAR制御)を取り入れた「次世代ADC」として注目すべき成果を示しました。私の見解として以下の点が重要だと考えます。

  • バイオマーカー主導治療:CLDN18.2高発現群に限定して良好な効果を示しており、発現評価の精緻化が治療成否を左右する。
  • 耐性克服戦略:Exatecanペイロードは従来化学療法耐性を克服する可能性があり、治療後進展例への適応に期待。
  • 比較優位:SHR-A1904と比較すると消化器毒性が軽減されており、特にZolbetuximab不耐例で臨床的意義が高い。
  • 今後の課題:グローバル第2/3相試験でOS改善を証明し、免疫療法との併用により適応拡大を目指す必要がある。

IBI343はClaudin18.2 ADCの臨床開発を牽引する存在として、次のフェーズでの成果が期待されます。

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この記事はMorningglorysciencesチームによって編集されました。

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この記事を書いた人

大学院修了後、米国トップ研究病院に留学し本格的に治療法・治療薬創出に取り組み、成功体験を得る。その後複数のグローバル製薬会社に在籍し、研究・ビジネス、そしてベンチャー創出投資家を米国ボストン、シリコンバレーを中心にグローバルで活動。アカデミアにて大学院教員の役割も果たす。

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