Claudin18.2(CLDN18.2)を標的としたADCは、進行胃がん・食道胃接合部(GEJ)がん治療の新しい柱として、アジアを中心に世界で開発が加速しています。本記事では、SHR-A1904・IBI343に続き、他の主要パイプライン(CMG901、EO-3021、XNW27011など)を紹介し、世界的な開発状況を整理した上で、今後の展望を検討します。
CMG901(KYM Biosciences/AstraZeneca)
CMG901は、MMAE(モノメチルアウリスタチンE)をペイロードとしたCLDN18.2 ADCです。中国KYM Biosciencesが開発し、AstraZenecaがライセンスを取得しました。第1相試験では忍容性良好かつ抗腫瘍活性を示し、現在はグローバル開発へ拡大しています。MMAEによる微小管阻害機構は、トポイソメラーゼ阻害ADCとは異なる耐性プロファイルを有すると期待されます。
EO-3021(SYSA1801/Elevation Oncology)
EO-3021(旧称SYSA1801)は、MMAEを搭載したADCで、中国CSPCによって開発され、米国Elevation Oncologyがライセンスを取得しました。第1相試験は中国で実施中で、世界展開に向けたパートナーシップが進行しています。Claudin18.2発現をバイオマーカーとする層別化設計を導入し、適応拡大の可能性が模索されています。
XNW27011(Evopoint/Astellas)
Evopointが開発したXNW27011は、2025年にAstellasがライセンスを取得しました。第1相試験において、CLDN18.2発現率5%以上の広範集団で奏効率51%という高い成績を示し注目を集めています。既に国際共同試験が企画されており、次世代ADCの有力候補と見られています。
その他の開発パイプライン
- FG-M108:アフコシル化抗体によるADC設計、免疫活性の調整を目指す。
- LM-302:CLDN18.2を標的としたADC、初期臨床試験段階。
- IBI38:Innoventによる二重特異性抗体(BsAb)、ADCとの併用戦略が期待される。
- CAR-T療法(satricabtagene autoleucel):ADCとは異なるモダリティだが、CLDN18.2標的治療のパイプラインを多様化させている。
世界的開発動向と規制環境
中国はCLDN18.2発現患者が多く、開発の中心地となっていますが、米国・欧州でも臨床試験が拡大中です。特にFDAは2025年、IBI343を膵がんに対してFast Track指定しており、適応拡大に向けた柔軟な規制対応が見られます。
共通する課題
Claudin18.2 ADC開発には共通の課題があります。
- 奏効率の上限:多くの試験でORRは30%前後にとどまり、耐性メカニズムの解明が急務。
- 毒性管理:血球毒性を中心にGrade ≥3有害事象が多く、長期投与に課題。
- 発現評価:IHCアッセイの標準化と発現閾値の国際的統一が必要。
私の考察
Claudin18.2 ADCは「ポストHER2」時代の胃がん治療の中心候補に位置しています。私の見立ては以下の通りです。
- 治療体系での位置づけ:Zolbetuximab不応例や免疫チェックポイント阻害剤抵抗性例における二線以降の標準治療候補。
- 耐性克服:Payloadの多様化(MMAE・Exatecan・Topoisomerase阻害剤など)により耐性パターンを分散できる。
- 併用戦略:ICIやVEGF阻害剤との併用で効果増強が期待される。
- グローバル競争:中国発のADCが開発をリードしているが、米国・欧州企業の参入により臨床試験の質・規模が拡大している。
総合的に見て、Claudin18.2 ADCは「治療標的として確立された分子」を活かした多様なモダリティの中核であり、今後5年で胃がん治療体系の再定義をもたらす可能性が高いと考えます。
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