KRAS変異膵癌に対するがんワクチン最前線 ― 免疫療法抵抗性を超えて②

目次

3部作

  • 第1部:KRAS変異PDACの生物学的背景とワクチン治療の理論的基盤
  • 第2部:RNAワクチンとAMPLIFY-201試験にみる臨床的進展
  • 第3部:CAR-T統合戦略と次世代ワクチンデザインの展望

第2部:RNAワクチンとAMPLIFY-201試験にみる臨床的進展

個別化RNAワクチンの登場

2023年にNature誌で報告された臨床試験では、個別化RNAネオアンチゲンワクチン(Autogene cevumeran) が膵癌の術後患者を対象に検証されました。患者ごとの腫瘍ゲノムを解析し、最大20種類のネオアンチゲンをコードするmRNAを短期間で製造し、術後に投与しました。その結果、16例中8例で高力価のネオアンチゲン特異的T細胞応答が誘導され、これらの患者は無再発生存期間(RFS)が有意に延長しました。さらに、追跡研究ではこれらのT細胞クローンが長期にわたり再増殖し、最大10%を占めるまで拡大することが確認されました。この結果は、ワクチンによって長期的な免疫記憶が形成される可能性を示唆しています。

AMPLIFY-201試験の成果

一方、KRAS G12DおよびG12Rに焦点を当てた「公的ワクチン」として登場したのが、ELI-002(アンフィフィルワクチン)です。これはリンパ節送達型のワクチンで、変異KRASペプチドとTLR9アゴニストCpGをアルブミン結合型に修飾することで効率的に免疫系に届ける設計となっています。
第1相試験(AMPLIFY-201)ではPDACと大腸癌の患者25例が登録され、84%でmKRAS特異的T細胞応答が確認されました。さらに腫瘍バイオマーカーの改善も84%に見られ、24%では完全なクリアランスが達成されました。中間解析では中央値16.3か月のRFSが得られ、T細胞応答の強さが臨床効果と明確に相関しました。最終解析(2025年)では、T細胞応答が閾値を超えた群では無再発生存期間も全生存期間も未到達
となり、免疫応答の質と長期臨床転帰が直結することが証明されました。

他癌種からの知見

腎細胞癌や肝細胞癌を対象にした個別化ワクチン試験でも、ICIとの併用により有望な結果が得られています。これらの知見は、低変異負荷腫瘍であってもワクチンを介して免疫応答を強化できることを示しています。

今後の展望と課題

  • バイオマーカー選択:ctDNAや腫瘍マーカー、HLA型を組み合わせ、最も恩恵を受ける患者を同定する必要があります。
  • 治療シークエンス:ワクチン単独か、ICI・化学療法・放射線との併用か、最適な組み合わせを決定する研究が必須です。
  • 製造とコスト:個別化ワクチンの迅速な製造、費用対効果、普及可能性をどう確保するかが鍵です。

まとめ

RNAワクチンとアンフィフィルワクチンは、これまで治療抵抗性とされたKRAS変異PDACに新たな突破口を開きつつあります。個別化戦略と普遍的戦略が補完的に進化することで、再発予防や長期生存の実現に向けた可能性が高まっています。

References (Common for the 4-part KRAS Cancer Vaccine Series)

  1. Nature, 2023. RNA neoantigen vaccines prime long-lived CD8+ T cells in pancreatic cancer.
  2. Nature, 2023. Personalized RNA neoantigen vaccines stimulate T cells in pancreatic cancer.
  3. Nature Medicine, 2023. Lymph-node-targeted, mKRAS-specific amphiphile vaccine in pancreatic and colorectal cancer: the phase 1 AMPLIFY-201 trial.
  4. Nature Medicine, 2025. Lymph node-targeted, mKRAS-specific amphiphile vaccine in pancreatic and colorectal cancer: final results of the phase 1 AMPLIFY-201 trial.
  5. Nature, 2023. Vaccine-boosted CAR T crosstalk with host immunity to reject tumors with antigen heterogeneity.
  6. Cancer Cell, 2020. Distinct clinical outcomes and biological features of specific KRAS mutants in human pancreatic cancer.
  7. Clinical Cancer Research, 2021. Distinct Molecular and Clinical Features of Specific Variants of KRAS Codon 12 in Pancreatic Adenocarcinoma.
  8. Nature, 2023. A neoantigen vaccine generates antitumour immunity in renal cell carcinoma.
  9. Lancet Oncology, 2023. Personalized neoantigen vaccine and pembrolizumab in advanced hepatocellular carcinoma: a phase 1/2 trial.

この記事はMorningglorysciencesチームによって編集されました。

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この記事を書いた人

大学院修了後、米国トップ研究病院に留学し本格的に治療法・治療薬創出に取り組み、成功体験を得る。その後複数のグローバル製薬会社に在籍し、研究・ビジネス、そしてベンチャー創出投資家を米国ボストン、シリコンバレーを中心にグローバルで活動。アカデミアにて大学院教員の役割も果たす。

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