がん治療薬承認速報 Oncology Drug Approval News Flash:切除不能または転移性HER2陽性乳がん一次治療におけるエンハーツ+ペルツズマブ併用療法がFDA承認

FDA承認の概要

2025年12月15日、米国食品医薬品局(FDA)は、ファム-トラスツズマブ デルクステカン-nxki(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki, Enhertu, 第一三共)をペルツズマブ(pertuzumab)と併用するレジメンを、切除不能または転移性HER2陽性乳がん(IHC 3+ または ISH 陽性)成人患者の一次治療として承認しました(いずれもFDA承認コンパニオン診断により確認)。

同時に、以下のコンパニオン診断薬も承認されています。

  • PATHWAY anti-HER-2/neu (4B5) Rabbit Monoclonal Primary Antibody
  • HER2 Dual ISH DNA Probe Cocktail

これにより、HER2 IHC3+ または ISH+ が確認された患者に対して、Enhertu+ペルツズマブ併用療法を一次治療として選択できるようになりました。


DESTINY-Breast09試験(NCT04784715)の概要

本承認は、DESTINY-Breast09試験の結果に基づいています。この試験は、一次治療のHER2陽性進行/転移性乳がん患者を対象としたランダム化、多施設、グローバル第3相試験です。

  • 試験デザイン:ランダム化、3群比較、多施設共同グローバル試験
  • 登録患者数:1157例のHER2陽性進行または転移性乳がん成人患者
  • 主な組み入れ条件:
    • 進行/転移性乳がんに対し、これまで化学療法またはHER2標的治療歴がない、もしくは
    • 術前/術後にHER2標的療法を受けているが、進行/転移性疾患の診断の6か月以上前に完了している
    • 進行/転移性乳がんに対する内分泌療法は1ラインまで許容
  • 治療群:1:1:1で以下に割り付け
    • Enhertu 5.4 mg/kg + ペルツズマブ群(n=383)
    • THP群:タキサン系(ドセタキセルまたはパクリタキセル)+トラスツズマブ+ペルツズマブ(n=387)
    • 試験治療群(investigational therapy, n=387)
  • いずれも3週間ごと静脈内投与を、有害事象または病勢進行まで継続

主要評価項目は、RECIST v1.1に基づく盲検独立中央判定(BICR)による無増悪生存期間(progression-free survival, PFS)であり、副次評価項目として全生存期間(overall survival, OS)および客観的奏効率(objective response rate, ORR)が設定されました。


有効性:標準THPに対する明確なPFSベネフィット

DESTINY-Breast09試験では、Enhertu+ペルツズマブ群は、THP(タキサン+トラスツズマブ+ペルツズマブ)群と比較してPFSを有意に延長しました(試験治療群は本承認の評価対象外)。

  • PFS(BICR評価):
    • Enhertu+ペルツズマブ群:中央値 40.7か月(95% CI:36.5, 推定不能)
    • THP群:中央値 26.9か月(95% CI:21.8, 推定不能)
    • ハザード比(HR):0.56(95% CI:0.44, 0.71)、p < 0.0001
  • 確認奏効率(ORR):
    • Enhertu+ペルツズマブ群:87%(95% CI:83, 90)
    • THP群:81%(95% CI:77, 85)

PFSの解析時点では、OSは未成熟であり、両群合わせて126例(全体の16%)の死亡が報告されていました。長期フォローアップにより、OSベネフィットの有無が今後さらに検証される見込みです。


安全性プロファイルと主な注意事項

Enhertu+ペルツズマブ併用療法に関する添付文書では、特に以下の有害事象に対する警告・注意が記載されています。

  • 好中球減少症(neutropenia)
  • 左室機能低下(left ventricular dysfunction)

HER2標的抗体薬およびADCでは、心機能障害リスクに加え、血液毒性や間質性肺疾患などが懸念されることが多く、ベースラインおよび治療中の心エコー評価や血球数モニタリングが重要です。特に既往の心疾患を有する患者では、循環器専門医との連携も含めた包括的なリスク管理が求められます。


用法・用量

推奨投与方法は以下の通りです。

  • 初回(サイクル1 Day 1):
    • Enhertu:5.4 mg/kg 静脈内投与
    • 続いてペルツズマブ:840 mg 静脈内投与
  • 2サイクル目以降(3週ごと):
    • Enhertu:5.4 mg/kg 静脈内投与
    • 続いてペルツズマブ:420 mg 静脈内投与

いずれも3週間ごとに繰り返し投与し、許容できない毒性または病勢進行が確認されるまで継続します。


規制上の位置づけ:Project Orbis、RTOR、Breakthrough指定

今回の審査は、FDA Oncology Center of Excellenceが主導する国際共同審査スキーム「Project Orbis」の枠組みの下で行われ、スイスSwissmedic(SMC)と協働して実施されています。他の規制当局での審査は現在も継続中です。

  • Real-Time Oncology Review(RTOR)パイロットプログラムを活用し、正式申請前から臨床データの事前審査を実施
  • 申請者によるAssessment Aid(AA)が任意提出され、審査効率化に寄与
  • 本申請はPriority Review(優先審査)の対象となり、Enhertu+ペルツズマブ併用療法にはBreakthrough Therapy指定が付与

FDAの重篤疾患向け迅速化プログラム(Fast Track、Breakthrough Therapy、Priority Review、Accelerated Approvalなど)は、「Expedited Programs for Serious Conditions – Drugs and Biologics」ガイダンスに整理されています。


Morningglorysciences 編集部コメント

HER2陽性転移性乳がんの一次治療は、これまでTHP(タキサン+トラスツズマブ+ペルツズマブ)が標準として確立されてきました。DESTINY-Breast09により、ADCであるEnhertuを一次ラインからペルツズマブと併用する戦略が、PFSの大幅な延長(中央値40.7か月 vs 26.9か月)と高い奏効率を示したことは、治療パラダイムに大きな変化をもたらす可能性があります。

一方で、ADCを一次治療から用いることにより、

  • 長期投与における血液毒性・心機能障害の蓄積リスク
  • 二次以降ラインで利用できる有効薬の「取り崩し」によるシーケンス戦略の変化
  • 薬剤費や医療資源の負担増

といった点も慎重に検討する必要があります。特に若年患者や予後の長い患者では、一次・二次以降を通じた全体戦略の中で、どのラインでEnhertuを活用するのが最も望ましいかという議論が続くでしょう。

今後は、

  • 特定サブグループ(内臓転移の有無、ホルモン受容体ステータスなど)におけるベネフィットの違い
  • 実臨床における間質性肺疾患・心毒性を含む安全性プロファイル
  • ADCとその他の新規HER2標的薬・免疫療法とのシーケンスや併用戦略

といった観点からのデータが、治療選択の最適化に重要になると考えられます。

※本記事はAACR “FDA Approval Alert”およびFDA公表資料を基に、Morningglorysciencesが独自に要約・整理したものです。

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この記事を書いた人

大学院修了後、米国トップ研究病院に留学し本格的に治療法・治療薬創出に取り組み、成功体験を得る。その後複数のグローバル製薬会社に在籍し、研究・ビジネス、そしてベンチャー創出投資家を米国ボストン、シリコンバレーを中心にグローバルで活動。アカデミアにて大学院教員の役割も果たす。

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