本シリーズは、がん治療における新しい創薬標的として転写制御装置に注目し、その中心的役割を担うCDK群(Cyclin-Dependent Kinases)とBRD4を取り上げます。従来、CDK阻害薬といえば細胞周期関連(CDK4/6阻害剤)が注目されてきました。しかし近年、RNAポリメラーゼIIの転写開始・pause解除・伸展を調整する「転写CDK群」が次世代の創薬標的として浮上しています。
さらに2023〜2025年にかけての最新研究では、CDK11が新しいpause-checkpointを担うことが報告され、CDK9と連携する新たな層の制御機構が明らかになりました。本シリーズでは、このような最新の論文知見を反映しつつ、各CDKとBRD4の役割・疾患関連・創薬開発の進展を整理します。
シリーズ全体の流れ
各部は1.5万字規模で丁寧に解説しています。本記事(第0部)では、それぞれの概要を簡潔に紹介します。
- 第1部:転写制御装置とCDK群の全体像 初心者向けに転写開始から伸展までの流れを解説し、CDK群の分類と役割を整理。
- 第2部:CDK7/8 ― 転写開始点の制御 TFIIHやMediator複合体に関連し、がんや免疫疾患における重要性を紹介。
- 第3部:CDK9 ― pause解除と臨床開発最前線 MCL1依存腫瘍などでの標的可能性、AZD4573などの臨床試験進展を詳述。
- 第4部:CDK12/13 ― DNA修復と合成致死戦略 BRCA関連遺伝子制御を通じ、PARP阻害剤との併用可能性を解説。
- 第5部:CDK11 ― pause-checkpointと新しい創薬可能性 最新論文をもとに、CDK11の新しい役割や阻害剤候補の探索を紹介。
- 第6部:BRD4とCDKクロストーク super-enhancer依存性を介した腫瘍依存性と、BET阻害剤+CDK阻害剤の併用戦略をまとめ、シリーズを総括。
このシリーズから得られること
- がん治療における「転写装置標的化」の最新動向を体系的に理解できる。
- 各CDKの分子メカニズムと創薬状況を把握できる。
- 最新論文(例:CDK11 checkpoint)の意義を専門家以外でも理解できる。
- 創薬の課題や将来展望について、自分なりに考える視点が得られる。
私の考察
私は、CDK群とBRD4を中心とする転写制御ネットワークが「単一標的ではなく多層的な脆弱性」をもつことが、がん治療における新しい可能性を切り開くと考えています。特に、CDK11のpause-checkpoint発見は従来の理解を刷新し、今後の創薬に大きなインパクトを与えるでしょう。今後は、CDK9・CDK12・BRD4との組み合わせ戦略が「腫瘍特異的転写脆弱性」を狙う上で重要な方向性になると期待されます。
シリーズ完結にあたって
本シリーズは全6部構成で展開され、今回の第0部はその「イントロダクション兼まとめ」となります。転写制御という複雑な仕組みを段階的に整理することで、初心者から専門家までが体系的に理解できるよう工夫しました。ぜひ各部の記事を読み進め、がん治療標的としての転写装置の最前線に触れてください。
この記事はMorningglorysciencesチームによって編集されました。

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