第1部では転写の基礎とCDK群全体像を解説しました。本稿では、転写の「スタートライン」に立つCDK7とCDK8に焦点を当てます。両者は転写開始点の制御に関わりますが、その役割や創薬戦略には大きな違いがあります。
1. 転写開始 ― プロモーターでのイベント
転写は「DNAからRNAを作る」という単純なプロセスに見えますが、実際には多段階のチェックポイントが存在します。まずPol IIがプロモーターにリクルートされ、TFIIHなどの転写因子複合体とともに開始複合体を形成します。このとき重要な司令塔がCDK7です。
1-1. CDK7の役割
- TFIIH複合体の一部としてPol II CTD Ser5をリン酸化 → 転写開始に必須。
- 細胞周期CDK(CDK1, 2, 4, 6)の活性化にも関与 → 「CDKのCDK」とも呼ばれる。
つまり、CDK7は「転写開始と細胞周期の二重の交通整理役」を果たします。
1-2. CDK8の役割
- Mediator複合体のキナーゼモジュールを構成 → 転写因子からPol IIへのシグナル伝達を調整。
- 遺伝子発現のON/OFFだけでなく「出力の強弱」を微調整。
- がんにおいてはsuper-enhancer関連遺伝子の制御に深く関与。
2. CDK7 ― 分子機構と疾患との関連
CDK7は転写開始時の「旗振り役」として機能します。Pol II CTDのSer5リン酸化は、プロモーターでの「RNA合成開始の合図」です。さらにCDK7はCDK1/2/4/6を活性化するCAK(CDK-activating kinase)としても働きます。
2-1. 疾患との関連
CDK7の異常活性化は以下の疾患と関連しています:
- 乳がん:ホルモン受容体依存性転写に寄与。
- AML:MYC依存性転写を支える。
- 小細胞肺がん:NEUROD1など転写因子依存の腫瘍で必須。
2-2. 創薬開発例
- SY-5609(Syros Pharmaceuticals):高選択性CDK7阻害剤。固形腫瘍・AMLで臨床試験中。
- CT7001(Carrick Therapeutics):経口CDK7阻害剤。乳がん、前立腺がんで開発進行。
3. CDK8 ― 分子機構と疾患との関連
CDK8はMediator複合体の一部として、遺伝子の発現レベルを「ボリューム調整」します。特にがんにおいては、super-enhancerを介してオンコジーン発現を維持する重要な因子です。
3-1. 疾患関連
- 大腸がん:WNT/β-catenin経路を増幅。
- 白血病:STAT経路を制御。
- 乳がん・悪性黒色腫:super-enhancer制御の中心。
3-2. 創薬開発例
- Cortistatin A誘導体:高選択性CDK8阻害作用を持つ化合物。
- Senexin B:CDK8/19阻害剤として開発。
4. 臨床試験の成果と課題
CDK7阻害剤はAMLや小細胞肺がんで有効性の兆候を示しています。しかし全身的転写抑制のリスクがあり、正常細胞への影響(骨髄抑制、肝毒性)が課題です。
CDK8阻害剤はまだ前臨床段階が中心ですが、転写調整作用を利用した「がんのスイッチ切り替え治療」として注目されています。
5. 研究の最前線
- CDK7阻害剤の短時間パルス投与による腫瘍特異性の強化。
- CDK8阻害と免疫チェックポイント阻害剤の併用で腫瘍免疫を強化。
- super-enhancer標的化によるがん特異的転写抑制。
6. CDK7・CDK8創薬の未来
両者は「転写開始点を制御する司令塔」として、がん創薬のフロンティアに立っています。CDK7はすでに臨床試験が進んでおり、CDK8は今後の展開が期待されます。腫瘍特異的依存性を突くことで、正常組織への影響を最小限に抑える戦略が今後の鍵です。
私の考察
私は、CDK7とCDK8が持つ「開始点制御」の役割は、がん細胞の脆弱性を突く非常にユニークなポイントだと考えています。特にCDK7は既に複数の臨床試験が進んでおり、今後「first-in-class」となる可能性を秘めています。一方でCDK8は前臨床段階ですが、super-enhancer制御という視点からがん特異性を担保できる点で注目すべき標的です。
次回予告
第3部では、転写伸展の要であるCDK9を取り上げ、pause解除から臨床試験の最前線までを詳しく解説します。
この記事はMorningglorysciencesチームによって編集されました。
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