これまでの第1部から第5部までで、CDK7/8/9/12/13/11といった転写制御に関与する主要CDK群を解説してきました。最終回となる第6部では、これらCDK群と密接にクロストークするBRD4(Bromodomain-containing protein 4)を取り上げます。
1. BRD4とは何か?
BRD4はBET(Bromodomain and Extra-Terminal domain)ファミリーに属するタンパク質で、クロマチン上のアセチル化ヒストンに結合し、転写を活性化する「リーダー役」を果たします。特に、BRD4はsuper-enhancer(超エンハンサー)領域での遺伝子制御に関与し、腫瘍細胞の「依存性遺伝子(oncogene addiction)」を維持します。
2. BRD4とCDK群のクロストーク
BRD4はCDK9を含むP-TEFb複合体と結合し、Pol II pause解除を促進します。つまり、BRD4は「CDK9を現場に呼び込み、転写を再開させるスイッチ」として機能します。
- BRD4 → CDK9:pause解除の直接促進。
- BRD4 → CDK7/12:CTDリン酸化やDNA修復遺伝子の転写に間接的に関与。
- super-enhancer:BRD4はがん細胞のMYCやBCL2依存性を強化。
3. BET阻害剤の登場
BRD4の機能を阻害するため、BET阻害剤が開発されました。代表例として:
- JQ1:初期の研究用ツール化合物。
- Pelabresib (CPI-0610):骨髄線維症やリンパ腫で臨床試験中。
- BMS-986158:固形腫瘍を対象とした開発。
4. 臨床試験と課題
BET阻害剤は初期臨床試験で有望な奏功を示しましたが、課題もあります。
- 毒性:血小板減少や疲労感などの副作用。
- 耐性:がん細胞は代替経路を活性化して抵抗する。
- 持続性:長期投与で効果が減弱する例も報告。
5. CDK阻害剤との併用戦略
BRD4とCDK群は「pause解除と伸展」を共有するため、併用戦略が有力です。
- BRD4阻害+CDK9阻害:pause解除と伸展の二重封鎖。
- BRD4阻害+CDK12阻害:DNA修復遺伝子とsuper-enhancer同時攻撃。
- 三重併用:BRD4+CDK9+BCL2阻害でMCL1依存腫瘍に効果。
6. super-enhancer標的化の臨床的意義
super-enhancerは「がんの弱点(Achilles’ heel)」と表現されます。BRD4はその中心に位置しており、CDK阻害剤と組み合わせることで腫瘍特異性を高め、副作用を抑える可能性があります。
7. 今後の展望
- 新規BET阻害剤:選択性や毒性改善を目指した第2世代薬が登場。
- PROTAC技術:BRD4そのものを分解するDegraderが開発中。
- 免疫療法併用:super-enhancer阻害により腫瘍免疫応答を増強できる可能性。
私の考察
私は、BRD4が「CDK群の交通整理役」として機能することが、転写制御の理解を一変させたと考えます。BRD4は単独標的としては限界があるかもしれませんが、CDK9やCDK12との併用により「がん細胞だけを狙い撃ちする戦略」が現実的になってきています。
シリーズ完結にあたって
本シリーズ「最新版治療薬動向 ― がん治療標的としての転写装置」は、本稿をもって完結です。6回にわたり、転写制御CDK群とBRD4をめぐる最新の研究と創薬開発動向を整理しました。振り返ると、転写装置は単一の分子ではなく、複数のCDKや補因子が「リレー形式」で制御する複雑なシステムであることが浮き彫りになりました。今後のがん治療では、この複雑さを逆手に取り、ネットワーク全体を見据えた戦略が求められるでしょう。
この記事はMorningglorysciencesチームによって編集されました。
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