FDA承認の概要
2026年2月26日、米国食品医薬品局(FDA)は、キナーゼ阻害薬ゾンゲルチニブ(zongertinib, Hernexeos, Boehringer Ingelheim)について、以下の適応で加速承認(accelerated approval)を付与しました。
- 成人の切除不能または転移性の非扁平上皮非小細胞肺がん(non-squamous NSCLC)で、
- 腫瘍がHER2(ERBB2)チロシンキナーゼドメイン(TKD)活性化変異を有し(FDA承認コンパニオン診断により確認)、
- 進行期に対する全身療法未施行(systemic therapy naïve)である患者
今回の承認は、すでに承認済みであったHER2 TKD変異NSCLCに対する適応を初回治療ラインに拡張するもので、より早期の段階で分子標的療法へのアクセスを可能とします。
本申請は、FDA長官のNational Priority Review Voucher(CNPV)パイロットプログラムの一環として取り扱われました。この枠組みは、重要な国家的優先課題に関わる医薬品の審査を加速することを目的としています。
Beamion LUNG-1試験(NCT04886804)の概要
有効性は、Beamion LUNG-1試験(NCT04886804)の成績に基づいて評価されました。
- 試験デザイン:単群、オープンラベル、多施設、多コホート試験
- 対象:
- 切除不能または転移性の非扁平上皮NSCLC
- 腫瘍にHER2(ERBB2)TKD活性化変異を有すること
- 進行期に対する全身療法歴なし(first-line)
- 有効性評価集団:上記条件を満たす72例
主要有効性評価項目は、客観的奏効率(objective response rate, ORR)と奏効期間(duration of response, DOR)であり、いずれもRECIST v1.1に基づき独立中央判定(BICR)で評価されました。
主な有効性結果
- 客観的奏効率(ORR):
- ORR:76%(95%信頼区間[CI]:65, 85)
- 奏効期間(DOR):
- 奏効持続≧6か月:奏効例の64%
- 奏効持続≧12か月:奏効例の44%
対照群を持たない単群試験ではあるものの、高い奏効率と長期奏効例の割合から、HER2 TKD変異陽性NSCLCに対する分子標的薬としての明確な抗腫瘍活性が示されています。
安全性プロファイルと主な注意事項
ゾンゲルチニブの添付文書には、以下の警告・注意事項が含まれています。
- 肝毒性(hepatotoxicity)
- 左室機能障害(left ventricular dysfunction)
- 間質性肺疾患/肺炎(ILD/pneumonitis)
- 胎児毒性(embryo-fetal toxicity)
HER2標的薬全般に共通する心機能障害や肺毒性のリスクがあるため、投与前後の心機能評価および呼吸器症状のモニタリングが重要です。特に既往の心疾患や間質性肺疾患を有する患者では、リスクとベネフィットの慎重な検討が求められます。
用法・用量
ゾンゲルチニブの推奨用量は体重別に設定されています。
- 体重90 kg未満:120 mg を1日1回経口投与
- 体重90 kg以上:180 mg を1日1回経口投与
食事の有無にかかわらず服用でき、病勢進行または許容できない毒性が出現するまで継続します。
本審査では、Real-Time Oncology Review(RTOR)パイロットプログラムを活用し、申請書全体の提出前に主要データを事前レビューすることで審査効率が高められました。また、申請者から任意提出されるAssessment AidがFDA評価を補助しています。ゾンゲルチニブはpriority review(優先審査)とbreakthrough therapy designationも付与されており、重篤疾患に対する迅速化プログラムの典型例といえます。
Morningglorysciences 編集部コメント
HER2変異陽性NSCLCは、全体の数%程度を占める比較的まれなサブタイプですが、ドライバー変異としてHER2 TKDが明確な役割を果たす集団です。これまでHER2標的薬は主に乳がん・胃がん領域で発展してきましたが、肺がん領域でも抗体薬物複合体やチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)による治療オプションが拡がりつつあります。
今回のゾンゲルチニブ加速承認は、
- HER2 TKD活性化変異という明確なバイオマーカーを持つ患者を、
- 進行期の初回治療ラインから選択的にターゲティングできる
という点で臨床的なインパクトが大きいと考えられます。ORR 76%、DOR≧12か月が奏効例の約4割という結果は、単群試験ながら従来のプラチナ併用化学療法と比べても十分に競合し得る有効性シグナルです。
一方で、
- 対照群を持たない単群試験に基づく加速承認であること
- 心機能障害やILDなど、HER2標的TKI特有の毒性マネジメント
- EGFRやALKなど他のドライバー変異との鑑別と、診断プロセス全体の最適化
といった点は、今後も慎重なフォローと実臨床データの蓄積が必要です。特に、「HER2免疫染色陽性」ではなくTKD変異という遺伝子レベルの異常が対象であることから、NGSなど遺伝子パネル検査の実施体制が重要な前提となります。
今後、検証的試験による全生存期間などのアウトカム確認とともに、既存の化学療法や抗体薬物複合体とのシーケンス戦略が、HER2変異NSCLC診療の新たな標準を形作っていくと期待されます。
※本記事はAACR “FDA Approval Alert”およびFDA公表資料を基に、Morningglorysciencesが独自に要約・整理したものです。

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