ADCシリーズ 第3回:抗体の構造と標的認識 — 可変領域の役割を中心に

抗体薬物複合体(ADC: Antibody-Drug Conjugates)において、抗体は標的細胞を見分けて薬剤を届ける案内役です。本記事では、抗体がどのようにしてがん細胞を見分けるのか、その仕組みの中核をなす「可変領域(Variable Region)」に焦点を当て、ADC設計における重要性を解説します。

抗体の基本構造:定常領域と可変領域

抗体はY字型をしており、大きく2つの領域に分かれます。

  • 定常領域(Constant Region): 免疫系との相互作用を担います。
  • 可変領域(Variable Region): 抗原(ターゲット)に特異的に結合する領域で、抗体の“目”に相当します。

可変領域が果たす役割とは?

抗体ががん細胞表面の抗原を「見分ける」ためには、可変領域のアミノ酸配列がその抗原の立体構造とピタリと合致する必要があります。

この可変領域はさらに、抗原結合部位(CDR: Complementarity Determining Region)と呼ばれる3つの短い領域から構成されており、ここが抗原との高い親和性を担っています。

ADCにおける可変領域の重要性

ADCでは、標的選択性と薬剤の有効性の両立が求められます。そのため、抗体の可変領域は以下の観点から重要です:

  • がん細胞選択性:正常細胞とがん細胞の違いを見極め、がん細胞だけに結合できる可変領域が理想です。
  • 内部化効率:結合後に抗体が細胞内に取り込まれやすいかどうかも、可変領域のターゲットに依存します。

実例:HER2を標的とした抗体

例えば、HER2陽性乳がんで用いられるトラスツズマブは、HER2タンパク質に特異的な可変領域を持ち、ADCの基本骨格としても用いられています。

次回(第4回)予告:リンカーの種類と切断機構

第4回では、抗体と薬剤をつなぐ「リンカー」について詳しく紹介します。どのようなリンカーが安定で、細胞内で正しく切断されるのか、ADCの設計における重要なファクターを解説します。

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この記事を書いた人

大学院修了後、米国トップ研究病院に留学し本格的に治療法・治療薬創出に取り組み、成功体験を得る。その後複数のグローバル製薬会社に在籍し、研究・ビジネス、そしてベンチャー創出投資家を米国ボストン、シリコンバレーを中心にグローバルで活動。アカデミアにて大学院教員の役割も果たす。

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