KRAS創薬の攻略地図塗り替え:G12D・pan-KRAS・分解剤が拓く4つの新フロンティア|KRAS新薬最前線 第2回

KRAS新薬第2回 アイキャッチ
目次

要点まとめ

  • 2025-26年、 KRAS 創薬は G12C(NSCLC 中心)から G12D(PDAC 中心)と pan-KRAS(複数変異対応)へと急速に拡張しました。 中心プレイヤーは Revolution Medicinesで、 同社の RAS(ON) inhibitor プラットフォームから 2 剤が臨床的飛躍を達成しています。
  • Daraxonrasib(RMC-6236)pan-RAS(multi-selective)阻害剤。 GTP 結合型(活性型)の KRAS / NRAS / HRAS の G12 / G13 / Q61 変異と野生型を tri-complex 機構(cyclophilin A 仲介)で阻害。 Phase 3 RASolute 302(既治療 PDAC)で OS 13.2 vs 6.7 ヵ月(HR 0.40、 P<0.0001)を達成、 FDA Breakthrough Therapy 指定。
  • Zoldonrasib(RMC-9805)G12D 選択的共有結合阻害剤。 G12D 変異 PDAC で ORR 30%、 disease control 80%。 1L 併用で ORR 63%。 G12D NSCLC で FDA Breakthrough Therapy 指定。 2026 年 Phase 3 開始。
  • 並行して KRAS G12D degrader(MSK 等)、 G12V / G13D / Q61 等の他変異特異的阻害剤、 SHP2/SOS1 上流阻害剤、 cancer vaccine(mRNA、 personalized neoantigen)も活発に開発中。 KRAS は2026年に「最も活発に新薬が出る癌標的」の一つに。

序論——「次のフロンティア」が動き出した

第1回で見たように、 KRAS G12C 阻害剤は2021-22年に承認されたが、 NSCLC 中心の市場で、 適応がん種の幅は限定的でした。 KRAS 変異の分布を見ると:

  • G12C:NSCLC で約30% の KRAS 変異中、 G12V/G12D/G12C/その他がほぼ等分。 大腸で約 7-12%、 PDAC でわずか 1-2%
  • G12D:PDAC で 約 50%の KRAS 変異、 大腸でも約 30-40%
  • G12V:PDAC で約 30%、 大腸で約 20%
  • G13D、 Q61H/L/R、 G12R:少数派だが集合的にはかなりの割合

つまり、 PDAC(膵がん)という「最も予後の悪いがんの一つ」で支配的な G12D/G12V を攻略できなければ、 KRAS 創薬の本当の臨床インパクトは限定されます。 そして 2025-26 年、 ようやくこのフロンティアが Revolution Medicinesの RAS(ON) プラットフォームから動き出しました。

本論

1. RAS(ON) プラットフォーム——分子グルー × 共有結合

Revolution Medicines(カリフォルニア州 Redwood City、 NASDAQ: RVMD)は、 KRAS の 「ON 状態」(GTP 結合活性型)を直接阻害する独自プラットフォームを構築しました。 従来の G12C 阻害剤は「OFF 状態」(GDP 結合不活性型)に結合する一方、 RAS(ON) 阻害剤は活性型を標的とします——これは生物学的により直接的なアプローチです。

機構の核心は 「molecular glue + tri-complex」

  1. 阻害剤分子がまず細胞内のシャペロン様タンパク cyclophilin A(CypA)に結合
  2. CypA-阻害剤複合体が、 GTP 結合型の活性 RAS に結合
  3. この三者複合体(tri-complex)が、 RAS の下流エフェクター(Raf、 PI3K 等)への結合を物理的に遮断
  4. 結果として RAS-MAPK/PI3K-AKT 経路を阻害

このアプローチの利点:(1) 活性型 RAS を狙う、 (2) 共有結合 + molecular glue で高親和性、 (3) 変異特異的(G12D)から multi-selective(複数変異)まで設計幅が広い、 (4) 既存の G12C 阻害剤と異なる耐性プロファイル。

2. Daraxonrasib(RMC-6236)——pan-RAS multi-selective

Daraxonrasibは経口の RAS(ON) multi-selective 阻害剤。 KRAS/NRAS/HRAS の G12(C/D/V/A/S)、 G13D、 Q61変異と野生型 RAS を阻害します。

Phase 3 RASolute 302(既治療 PDAC)の結果(2025-26 年発表):

  • 対象:1L 化学療法不応の metastatic PDAC(KRAS G12 変異)
  • 主要評価項目:OS、 PFS
  • 結果:median OS 13.2 ヵ月(daraxonrasib)vs 6.7 ヵ月(標準化学療法)、 HR 0.40(P<0.0001)——死亡リスク 60% 減
  • PFS も有意延長
  • 安全性:grade ≥3 TRAE は 38%(化学療法群 73%)と概ね良好
  • 主な AE:発疹、 下痢、 口内炎、 悪心

これは 過去20年で PDAC 二次治療として最大級の OS 延長。 PDAC の中央 OS が 6 ヵ月程度の領域で 13 ヵ月超は破格です。 FDA は2024年に Breakthrough Therapy 指定、 NDA 提出が控えています。

Phase 1/2 一次治療(1L)データ(AACR 2026):

  • monotherapy(300 mg QD)と化学療法併用(200 mg QD + GnP[gemcitabine + nab-paclitaxel])の両方で活性
  • 歴史的化学療法ベンチマークを上回る ORR、 6 ヵ月 PFS / OS
  • RASolute 303(Phase 3、 1L PDAC、 約900例)が daraxonrasib monotherapy vs daraxonrasib→GnP maintenance vs GnP alone をランダム化

適応拡大も進行中:

  • 大腸がん(既治療 KRAS 変異):Phase 1/2 進行中、 ORR 約 20-30% を示唆
  • NSCLC(KRAS 変異):Phase 1/2 進行中
  • resected PDAC(術後補助療法):Phase 3(NCT07252232)開始
  • RAS 変異 neuroblastoma(小児固形がん):preclinical efficacy(PubMed 41756844)

3. Zoldonrasib(RMC-9805)——G12D 選択的

Zoldonrasibは経口の G12D 選択的(GS)共有結合阻害剤。 KRAS G12D 変異タンパクの D 残基(aspartate)に共有結合する設計です(G12C の cysteine と異なり、 D には共有結合 warhead 設計が困難でしたが、 Revolution Medicines の独自化学で達成)。

Phase 1 PDAC データ

  • heavily pretreated(重度既治療)PDAC G12D 変異患者で ORR 30%、 disease control rate 80%
  • Rasolute-305(Phase 3、 1L PDAC)は zoldonrasib + 化学療法(GnP)vs 化学療法 alone
  • 1L 併用 早期データ:ORR 63%(19 例)——これは PDAC 1L として歴史的高水準

NSCLC G12D データ

  • G12D 変異 NSCLC(少数派、 約 4-5%)で活性確認
  • FDA は 2026 年に NSCLC G12D で Breakthrough Therapy 指定
  • Phase 3 開始

2026 年に Revolution は 2 件の Phase 3 PDAC(zoldonrasib 1L)と 1 件の Phase 3 NSCLC(G12D)を開始する計画。

4. KRAS degrader——「分解する」という発想

第3の戦略軸が KRAS タンパク質分解誘導剤(degrader)です。 阻害ではなく、 KRAS タンパクそのものを E3 ubiquitin ligase 経路で分解させる。 PROTAC(PROteolysis-Targeting Chimera)や molecular glue degrader として設計されます。

Memorial Sloan Kettering(MSK)等が開発する first-in-class G12D degrader

  • KRAS G12D に結合する弾頭 + E3 ligase(CRBN、 VHL 等)リガンド + リンカー
  • 細胞内で KRAS G12D を選択的にユビキチン化、 プロテアソーム分解
  • preclinical で肺・膵がんで顕著な腫瘍縮小
  • Phase 1 始動、 first-in-class として注目

degrader の理論的優位:(1) 標的を completely 排除(catalytic mode)、 (2) 耐性出現を抑制し得る(タンパク質量低下のため変異も無効化されやすい)、 (3) アロステリック site が不要——これらが KRAS のような「フラットな表面」標的で特に有用とされます。

5. その他の変異特異的阻害剤

  • G12V 阻害剤:PDAC で約 30% を占めるが、 G12V は covalent warhead 設計が困難。 several companies(BridgeBio Oncology、 Frontier Medicines 等)が non-covalent G12V 阻害剤を開発中
  • G13D 阻害剤:CRC で重要、 BridgeBio 等が候補
  • Q61H/L/R 阻害剤:少数派だが、 melanoma、 thyroid、 NSCLC で重要。 BridgeBio 等
  • G12R 阻害剤:膵がん特異的に頻出(約 12-15%)、 開発初期

6. 上流阻害剤——SHP2、 SOS1、 KRAS-RAF interface

変異特異的でない上流阻害剤も並行開発:

  • SHP2 阻害剤:RMC-4630(Revolution)、 BBP-398(BridgeBio)、 JAB-3068(Jacobio)、 SH3809、 ERAS-601 等。 単剤でも活性、 KRAS G12C 阻害剤との combo で synergy
  • SOS1 阻害剤:BI 1701963(Boehringer)、 KRAS GEF を阻害して KRAS の活性化を抑制
  • RAF inhibitor 二世代:tovorafenib(Day One Biopharmaceuticals)等が pan-RAF として開発、 RAS-RAF パスウェイの bypass を阻害
  • ERK inhibitor:下流 ERK1/2 を阻害、 ulixertinib 等

7. KRAS ワクチン・免疫療法

免疫学的アプローチも進展:

  • mRNA ワクチン(personalized neoantigen):BioNTech、 Moderna が KRAS 変異タンパクに対する個別化ワクチン開発。 Targeted Oncology 等で報告。 PDAC 補助療法(術後再発予防)で臨床試験中
  • TCR-T 細胞療法:KRAS G12D/G12V neoantigen を認識する T 細胞受容体改変 T 細胞
  • Bispecific T cell engager:KRAS neoantigen × CD3 の二重特異性抗体
  • cancer vaccine + ICI 併用:mRNA ワクチン + nivolumab/pembrolizumab

2024 年 NEJM 掲載の Memorial Sloan Kettering の Vinod Balachandran 教授グループによる 個別化 mRNA neoantigen ワクチン(autogene cevumeran、 BioNTech)の PDAC 術後補助試験では、 KRAS 含む neoantigen に対する強い T 細胞応答を誘導、 ワクチン応答群で再発リスクが有意に低下したことが報告。 これは PDAC 免疫療法の歴史的進展の一つです。

8. 競合・重複——「pan-KRAS」と「変異特異的」のせめぎ合い

pan-RAS(daraxonrasib のように複数変異対応)と変異特異的(zoldonrasib のように G12D のみ)の戦略は、 互いに補完的でもあり競合的でもあります:

項目 pan-RAS(daraxonrasib) 変異特異的(zoldonrasib)
適応の幅 広い(複数変異) 狭い(G12D のみ)
分子診断必要性 低い(汎用 NGS で十分) 高い(G12D 確定が必要)
選択性・毒性 WT RAS にも作用 → 毒性懸念あり 変異タンパクのみ → 毒性低い理論
耐性 多変異対応で耐性出現を抑制 変異特異的耐性が出やすい可能性
開発複雑度 1 剤で広い市場 複数の変異特異剤が必要

結局、 両者は 「順序戦略(sequence strategy)」になる可能性が高い:1L で pan-RAS、 2L で変異特異的、 あるいは逆。 また、 変異の minor clone が支配的になる耐性後の対応が、 多変異対応 pan-RAS の真価を発揮する場面かもしれません。

私の考えと今後の展望

第1回(G12C)から第2回(G12D / pan-RAS)への進化は、 KRAS 創薬の 「攻略地図の塗り替え」を示しています。 2026 年時点で見えてきたのは、 (1) PDAC という「予後最悪」のがんに OS 延長が見える、 (2) 1 つの変異対応から複数変異対応への拡張が現実化、 (3) 阻害だけでなく分解、 ワクチン、 上流阻害が並行展開——という景色です。

第1に、 daraxonrasib の Phase 3 PDAC 結果は破格。 OS 13.2 vs 6.7 ヵ月は、 PDAC 二次治療として20年で最大級。 FDA 承認後、 1L 試験(RASolute 303)の結果次第では、 PDAC のスタンダードが 化学療法から RAS(ON) inhibitor 中心に塗り替わる可能性。

第2に、 zoldonrasib + 化学療法 1L PDAC の ORR 63%(19例)は、 過去の PDAC 1L 標準(FOLFIRINOX、 GnP の ORR 30-40%)を大きく上回る。 大規模試験での再現性確認が次のマイルストーン。

第3に、 個別化 mRNA neoantigen ワクチンと KRAS 阻害剤の併用が、 数年内に PDAC 補助療法を根本的に変え得る。 BioNTech / Moderna の動向に注視。

第4に、 「KRAS は標的化不可能」という常識が完全に崩れた。 残された変異(G12V、 G13D、 Q61)への対応が次の主戦場。 第3回ではプレイヤーマップ全体を整理します。

初〜中級者の視点

第1回でみた KRAS G12C は、 主に肺がんで重要な変異でした。 でも実は、 KRAS 関連がんで最も予後が悪い 膵がん(PDAC)では、 G12C は 1-2% しかありません。 主役は G12D(約 50%)と G12V(約 30%)です。 だから、 G12D を攻略できないと「KRAS 治療革命」は本物にはなりません。

2025-26 年、 ようやくその G12D 攻略が始まりました。 Revolution Medicinesという米国カリフォルニア州の会社が開発した daraxonrasib(ダラクソンラシブ)zoldonrasib(ゾルドンラシブ)です。

特に daraxonrasib は、 「複数の KRAS 変異と通常の RAS の両方に効く」(pan-RAS)薬で、 既治療膵がんの大規模試験で 生存期間中央値が 6.7 ヵ月から 13.2 ヵ月にほぼ倍増(つまり生存リスクが 60% 減)という、 膵がん治療の歴史で20年で最大級の進歩を達成しました。 FDA から Breakthrough Therapy(画期的治療薬)に指定されています。

zoldonrasib のほうは G12D だけを狙う薬で、 1次治療+化学療法併用で 19 人中 12 人(63%)の腫瘍が縮小。 これも極めて高い数字です。

こうした進歩は「治せないがん」の見方を変え始めています。 第3回では、 こうした薬を出している競合プレイヤー全体の地図を見ていきます。

科学ライターの視点

2025-26 年、 KRAS 創薬は G12C から G12D・pan-KRAS への拡張を達成。 中心は Revolution Medicines の RAS(ON) プラットフォーム——cyclophilin A 仲介の tri-complex molecular glue 機構で活性 GTP 結合型 RAS を阻害。 daraxonrasib(RMC-6236、 pan-RAS multi-selective)は Phase 3 RASolute 302(既治療 PDAC)で OS 13.2 vs 6.7 ヵ月(HR 0.40)を達成、 FDA Breakthrough Therapy 指定。 zoldonrasib(RMC-9805、 G12D selective)は PDAC heavily pretreated で ORR 30% / DCR 80%、 1L 併用で ORR 63%、 NSCLC G12D で FDA Breakthrough。 KRAS degrader(MSK 等の first-in-class G12D PROTAC)が Phase 1 始動、 タンパク質分解という新しい mechanism を導入。 mRNA neoantigen ワクチン(BioNTech autogene cevumeran)が PDAC 術後補助試験で T 細胞応答誘導と再発抑制を report、 KRAS を含む neoantigen に対する免疫学的アプローチを立ち上げ。 SHP2、 SOS1 等の上流阻害剤が KRAS との combo で並行展開。 第3回でプレイヤーマップ全体を詳述。

専門家の視点

Revolution Medicines の RAS(ON) platform は cyclophilin A bridged tri-complex inhibitors(molecular glue + covalent warhead)として GTP-bound active RAS を阻害する mechanism——従来の OFF state(GDP 結合)を狙う sotorasib/adagrasib とは異なる approach。 Daraxonrasib(RMC-6236、 pan-RAS multi-selective for KRAS/NRAS/HRAS G12, G13, Q61, WT):Phase 3 RASolute 302(previously treated metastatic PDAC、 KRAS G12 mutant、 NCT06625320)で median OS 13.2 vs 6.7 months(HR 0.40、 P<0.0001)、 PFS と ORR primary endpoints も met——FDA Breakthrough Therapy designation。 Phase 1/2 1L data(AACR 2026):monotherapy 300 mg QD 6 ヵ月 PFS / OS が historical chemotherapy benchmark を上回る;combination 200 mg QD + GnP で初期 ORR 高値。 RASolute 303(Phase 3、 1L PDAC、 ~900 例)が monotherapy vs maintenance vs GnP alone を randomize。 NCT07252232 は resected PDAC adjuvant Phase 3。 Zoldonrasib(RMC-9805、 G12D-selective covalent inhibitor):PDAC heavily pretreated で confirmed ORR 30% / DCR 80%;Rasolute-305 1L PDAC + GnP で 19 例中 ORR 63%;NSCLC G12D で FDA Breakthrough Therapy。 Phase 3 multiple programs in 2026 launched。 G12D degrader(MSK MSKCC announcement、 PROTAC 機構)が Phase 1 開始、 catalytic protein degradation paradigm。 G12V、 G13D、 Q61 specific inhibitors(BridgeBio Oncology、 Frontier Medicines)開発中。 SHP2(RMC-4630、 BBP-398、 JAB-3068)、 SOS1(BI 1701963)、 ERK inhibitors が KRAS combo で進展。 Personalized mRNA neoantigen vaccines:autogene cevumeran(BioNTech)が PDAC adjuvant trial(Balachandran et al.、 NEJM 2023)で responders に 12 ヵ月 RFS 上昇——KRAS を含む neoantigen に対する CD4/CD8 T cell responses 誘導。 TCR-T、 BiTE、 vaccine + ICI も同時展開。 第3回で player map と pipeline outlook を詳述。

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この記事を書いた人

大学院修了後、米国トップ研究病院に留学し、治療法・治療薬創出に本格的に取り組む。博士号取得者(PhD)。複数のグローバル製薬会社で研究・ビジネス、そしてベンチャー投資家として、米国ボストン、シリコンバレーを中心にグローバルで活動。国内外で新規治療薬の上市に貢献し、複数の研究賞受賞歴あり。アカデミアでは大学院教員も務める。

論文・承認・臨床・投資——単なるニュース速報ではなく、「なぜ今これが起きているか」「次に何が来るか」を、独自の視点と MyThought で読み解きます。

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