Glioblastoma シリーズ|Part 6:見分ける力――バイオマーカーと複合診断(画像×転写×コピー数)

見分ける力――バイオマーカーと複合診断(画像×転写×コピー数)

治療は「どの患者に、いつ、何を」を見極めてこそ前に進みます。本回は、画像・転写(遺伝子発現)・コピー数(CNV)を重ねた複合診断を入門トーンで地図化します。

目次

今回のゴール(3分で把握)

  • 最小セットの分子マーカー(MGMT、EGFR、TERT、PTENなど)を理解。
  • GBMらしさのコピー数署名(chr7増加/chr10欠失)とpre-CC署名の意味を掴む。
  • 画像(DTIほか)×分子を合わせると何が見えるかを把握。
  • 臨床で使える簡易テンプレ(レポート雛形)を持ち帰る。

まずは「必須レベル」の分子マーカー

病理・分子(基礎)

  • MGMTプロモーターのメチル化:TMZ感受性の指標。
  • TERTプロモーター変異:成人GBMで頻度が高い。
  • EGFR増幅/変異:EGFRvIIIなど、増殖シグナルの亢進。
  • PTEN欠失:PI3K/AKT経路の活性化に関与。
  • IDH:成人一次GBMは多くがIDH野生型。

コピー数(CNV)と署名

  • chr7増加/chr10欠失(7+/10−):GBMを示す代表的組み合わせ。
  • EGFR増幅(7p)/PTEN欠失(10q)などと連動。
  • pre-CC署名:腫瘍“芽”と本体が共有しうる初期変化の目印。

*詳細なパネルは施設で異なります。まずは「MGMT+CNV(土台)+EGFR/TERT/PTEN」の軸を押さえましょう。

転写の“顔”を見る:OPC/AC/MES(Part 5の実装編)

単一遺伝子よりも遺伝子セット(シグネチャ)で状態を捉えます。

OPC-like

細胞周期高DNA合成WEE1感受性示唆

AC-like

代謝適応グリア性状況依存感受性

MES-like

炎症/ECM浸潤性微小環境連動

*状態は連続体。治療や環境で偏りが変わります(可塑性)。

画像×分子=複合診断(Composite Diagnostics)

画像側(例)

  • DTI:白質トラクトの方向性→浸潤予測。
  • 造影ダイナミクス:血管新生やBBB破綻の示唆。
  • テクスチャ解析:異質性(heterogeneity)を数値化。

分子側(例)

  • 7+/10−とEGFR/PTEN:GBMらしさと経路活性。
  • pre-CC署名:SVZ“芽”の寄与度。
  • OPC/AC/MES署名:可塑性の方向性。

読み解きの型

所見仮説治療設計の示唆
DTIで主要線維束に沿う拡がり浸潤経路の存在抗浸潤(ECM/接着)+増殖抑制の二面作戦
7+/10−+EGFR増幅増殖/シグナル優位放射線・TMZ土台+(試験で)経路抑制を検討
pre-CC署名高“芽”の寄与が大きい早期介入・微小環境(MIF–CD74)併用を前提に
MES様署名優位浸潤・耐性寄りECM/接着・場の制御を強化(+細胞周期)
MGMTメチル化ありTMZ感受性示唆標準治療のベネフィット期待(TTF含む適応で)




注意点(ピットフォール)

  • 検体品質:腫瘍内不均一性で結果がぶれます(再発時は再評価を検討)。
  • 画像の歪み:浮腫・壊死でDTI等は誤差増。複数モダリティで補完。
  • 署名の移ろい:治療で偏りが変わる(可塑性)。縦断評価が重要。
  • 地域差:検査アクセス・解釈体制に国差(Part 8で整理)。

一旦のまとめ

  • MGMT+CNV(7+/10−)+EGFR/TERT/PTENが土台。
  • OPC/AC/MES+pre-CC署名で“顔”と“芽”を同時に読む。
  • 画像×分子の複合で「誰に・いつ・何を」を設計する。

私の考え

私は、「土台(MGMT・CNV)→顔(OPC/AC/MES)→芽(pre-CC)→場(MIF–CD74)→経路」の順で読み解き、少ない手数で多様性を包摂する組み合わせを引くべきと考えます。次回(Part 7)は、この“読み”を前提に、世界の開発状況をモダリティ別にマップします。

Morningglorysciencesチームによって編集されました。

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この記事を書いた人

大学院修了後、米国トップ研究病院に留学し本格的に治療法・治療薬創出に取り組み、成功体験を得る。その後複数のグローバル製薬会社に在籍し、研究・ビジネス、そしてベンチャー創出投資家を米国ボストン、シリコンバレーを中心にグローバルで活動。アカデミアにて大学院教員の役割も果たす。

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